■ コンテンツこんてんつ  

作品さくひん名めい：クリスマスくりすますの贈物おくりもの
著者ちょしゃ名めい：竹久たけひさ 夢二ゆめじ

「ねえ、かあさん」
　みっちゃんは、お三時『やつ』のとき、二ふたつ目めの木この葉はパンぱんを半分はんぶん頬『ほお』ばりながら、母様かあさまにいいました。
「ねえ、かあさん」
「なあに、みっちゃん」
「あのね、かあさん。もうじきに、クリスマスくりすますでしょ」
「ええ、もうじきね」
「どれだけ？」
「みっちゃんの年としほど、おねんねしたら」
「みっちゃんの年としほど？」
「そうですよ」
「じゃあ、かあさん、一ひとつ二ふたつ三みっつ……」とみっちゃんは、自分じぶんの年としの数かずほど、テーブルてーぶるの上うえに手てをあげて、指ゆびを折おりながら、勘定かんじょうをはじめました。
「ひとつ、ふたあつ、みっつ、そいから、ね、かあさん。いつつ、ね、むっつ。ほら、むっつねたらなの？　ね、かあさん」
「そうですよ。むっつねたら、クリスマスくりすますなのよ」
「ねえ、かあさん」
「まあ、みっちゃん、お茶ちゃがこぼれますよ」
「ねえ、かあさん」
「あいよ」
「クリスマスくりすますにはねえ。ええと、あたいなにがほしいだろう」
「まあ、みっちゃんは、クリスマスくりすますの贈物おくりもののことを考かんがえていたの」
「ねえ、かあさん、何なんでしょう」
「みっちゃんのことだもの。みっちゃんが、ほしいとおもうものなら、何なんでも下くださるでしょうよ。サンタクロスさんたくろすのお爺『じい』さんは」
「そう？　かあさん」
「ほら、お口くちからお茶ちゃがこぼれますよ。さ、ハンカチはんかちでおふきなさい。えエええエえ、なんでも下くださるよ。みっちゃん、何なにがほしいの」
「あたいね。金きんの服ふくをきたフランスふらんすの女王様じょおうさまとね、そいから赤あかい頬『ほっ』ぺをした白しろいジョーカーじょーかーと、そいから、お伽『とぎ』ばなしの御本ごほんと、そいから、なんだっけそいから、ピアノぴあの、そいから、キュピーきゅぴー、そいから……」
「まあ、ずいぶんたくさんなのね」
「ええ、かあさん、もっとたくさんでもいい？」
「えエえ、えエえ、よござんすとも。だけどかあさんはそんなにたくさんとてもおぼえきれませんよ」
「でも、かあさん、サンタクロスさんたくろすのお爺じいさんが持もってきて下くださるのでしょう」
「そりゃあ、そうだけれどもさ、サンタクロスさんたくろすのお爺じいさんも、そんなにたくさんじゃ、お忘わすれなさるわ」
「じゃ、かあさん、書かいて頂戴『ちょうだい』な。そして、サンタクロスさんたくろすのお爺じいさんに手紙てがみだして、ね」
「はい、はい、さあ書かきますよ、みっちゃん、いってちょうだい」
「ピアノぴあのよ、キュピーきゅぴーよ、クレヨンくれよんね、スケッチすけっち帖『ちょう』ね、きりぬきに、手袋てぶくろに、リボンりぼんに……ねえかあさん、お家『うち』なんかくださらないの」
「そうね、お家『うち』なんかおもいからねえ。サンタクロスさんたくろすのお爺『じい』さんは、お年寄としよりだから、とても持もてないでしょうよ」
「では、ピアノぴあのも駄目だめかしら」
「そうね。そんなおもいものは駄目だめでしょ」
「じゃピアノぴあのもお家うちもよすわ、ああ、ハーモニカはーもにか！　ハーモニカはーもにかならかるいわね。そいからサーベルさーべるにピストルぴすとるに……」
「ピストルぴすとるなんかいるの、みっちゃん」
「だって、おとなりの二郎『じろう』さんが、悪漢『わるもの』になるとき、いるんだっていったんですもの」
「まあ悪漢わるものですって。あのね、みっちゃん、悪漢わるものなんかになるのはよくないのよ。それにね、もし二郎じろうさんが悪漢わるものになるのに、どうしてもピストルぴすとるがいるのだったら、きっとサンタクロスさんたくろすのお爺じいさんが二郎じろうさんにももってきて下くださるわ」
「二郎じろうさんとこへも、サンタクロスさんたくろすのお爺じいさんくるの」
「二郎じろうさんのお家うちへも来きますよ」
「でも二郎じろうさんとこに、煙突えんとつがないのよ」
「煙突えんとつがないとこは、天窓てんまどからはいれるでしょう」
「そうお、じゃ、ピストルぴすとるはよすわ」
「さ、もう、お茶ちゃもいいでしょ。お庭にわへいってお遊あそびなさい」
　みっちゃんはすぐにお庭にわへいって、二郎じろうさんを呼よびました。
「二郎じろうさん、サンタクロスさんたくろすのお爺じいさんにお手紙てがみかいて？」
「ぼく知しらないや」
「あら、お手紙てがみ出ださないの。あたしかあさんがね、お手紙てがみだしたわよ。ハーモニカはーもにかだの、お人形にんぎょうだの、リボンりぼんだの、ナイフないふだの、人形にんぎょうだの、持もってきて下くださいって出だしたわ」
「お爺じいさんが、持もってきてくれるの？」
「あら、二郎じろうさん知しらないの」
「どこのお爺じいさん？」
「サンタクロスさんたくろすのお爺じいさんだわ」
「サンタクロスさんたくろすのお爺じいさんて、どこのお爺じいさん？」
「天てんからくるんだわ。クリスマスくりすますの晩ばんにくるのよ」
「ぼくんとこは来こないや」
「あら、どうして？　じゃきっと煙突えんとつがないからだわ。でも、かあさんいったわ、煙突えんとつのないとこは天窓てんまどからくるって」
「ほう、じゃくるかなあ、何なにもってくる？」
「なんでもよ」
「ピストルぴすとるでも？」
「ピストルぴすとるでもサーベルさーべるでも」
「じゃ、ぼく手紙てがみをかこうや」
　二郎『じろう』さんは、大急おおいそぎで家『うち』へ飛とんで帰かえりました。二郎じろうさんの綿入わたいれをぬっていらした母かあさんにいいました。
「サンタクロスさんたくろすに手紙てがみをかいてよ、かあさん」
「なんですって、この子こは」
「ピストルぴすとると、靴くつと、洋服ようふくと、ほしいや」
「まあ、何なにを言いっているの」
「みっちゃんとこのかあさんも手紙てがみをかいて、サンタクロスさんたくろすにやったって、人形にんぎょうだの、リボンりぼんだの、ハーモニカはーもにかだの、ねえかあさん、ぼく、ピストルぴすとるとサーベルさーべると、ね……」
「それはね二郎じろうさん、お隣となりのお家うちには煙突えんとつがあるからサンタクロスさんたくろすのお爺『じい』さんが来くるのです」
「でもいったよ、みっちゃんのかあさんがね、煙突えんとつがないとこは天窓てんまどがいいんだって」
「まあ。それじゃお手紙てがみをかいてみましょうね。坊ぼうや」
「嬉『うれ』しいな。ぼくピストルぴすとるにラッパらっぱもほしいや」
「そんなにたくさん、よくばる子こには、下くださらないかも知しれませんよ」
「だってぼく、ラッパらっぱもほしいんだもの」
「でもね、サンタクロスさんたくろすのお爺様じいさまは、世界せかい中ちゅうの子供こどもに贈物おくりものをなさるんだから、一人ひとりの子供こどもが欲よくばったら貰『もら』えない子供こどもができると悪わるいでしょう」
「じゃあぼく一ひとつでいいや、ラッパらっぱ。ねえかあさん」
「そうそう二郎じろうさんは好『よ』い子ごね」
「赤あかい房ふさのついたラッパらっぱよ、かあさん」
「えエええエえ、赤あかい房ふさのついたのをね」
「うれしいな」
　クリスマスくりすますの夜よるがあけて、眼『め』をさますと、二郎じろうさんの枕『まくら』もとには、立派りっぱな黄色きいろく光ひかって赤あかい房ふさのついたラッパらっぱが、ちゃんと二郎じろうさんを待まっていました。二郎じろうさんは大喜おおよろこびでかあさんを呼よびました。
「かあさん、ぼく吹ふいてみますよ。チッテちって、チッテタちってた、トッテッとってっ、チッチッちっちっ、トッテッチとってっち」
　ところが、みっちゃんの方ほうは、朝あさ、目めをさまして見みると、リボンりぼんと鉛筆えんぴつとナイフないふとだけしかありませんでした。
　みっちゃんはストーブすとーぶの煙突えんとつをのぞいて見みましたが、外そとには何なにも出でてきませんでした。みっちゃんは泣なき出だしました。いくらたくさん贈物おくりものがあっても、みっちゃんを喜よろこばせることが出来できないのでした。みっちゃんはいくらでもほしい子こでしたから。

（一九せんきゅうひゃく二五にじゅうごねん、九くがつ、二五にじゅうごにち）