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ルビ付きテキスト

第13話 美しいだけでは間にあはない・加藤道夫(旧字旧仮名)


伏字ふせじ漢字かんじ

いちからろく小1しょういちから小6しょうろくなな中学ちゅうがくおぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小2,❷: 心 , 理 , 行 , 通
小3,❸: 代 , 美 , 面
小4,❹: 共 , 別
小5,❺: 個

学習がくしゅうコンテンツ 

仮名がな漢字『かんじ』(『かんじ』)のよう括弧かっこいた漢字かんじ原書げんしょ仮名がないている漢字かんじです。


作品さくひんめいうつくしいだけではにあはない
著者ちょしゃめい加藤かとう 道夫みちお


 げきとは元來がんらい本質的ほんしつてきはなせぬ關係かんけいにあるが、「思想しそう」がげき不可ふかけつのものであるとはとくひきれない。我々われわれは「思想しそう」のないげきにはきるほどれてたし、うつくしいとか❸白おもしろいとかてん稱讃しょうさんもしてた。思想しそうげき名稱めいしょう時期じきには「退屈たいくつ」の❸名詞だいめいしようにさへ使つかはれてた。うつくしいのはいい。❸白おもしろいのはいい。だが、うつくしいだけでは、❸白おもしろいだけでははぬ時❸じだいになつてしまつたやうである。げき思想性しそうせい反省はんせいされねばならぬときであらう。
 ぼくはこのごろでは、べつ斬新ざんしん奇拔きばつ戲曲ぎきょくきたいなどとはおもはないが、ただ舞臺ぶたいとおしてまこと今日的こんにちてき世界像せかいぞう人間像にんげんぞうぼく自身じしんのイデエをたくしたいと切實せつじつねがひにしきりにとらへられる。新劇しんげきいままでのやうな日常的にちじょうてきしょう世界せかい描寫びょうしゃ❷❷しんり風俗ふうぞく展開てんかいからおおきな時❸じだいのドラマにまで飛躍ひやくしてかねば、やがて命數めいすうきてしまのではないか、とさへおもふ。演劇えんげき言葉ことば多愛たわいもない娯樂ごらくためだとか、さやかな❷❷的しんりてき❹鳴きょうめいためにのみあるべき時❸じだいではなくなつたやうである。人々ひとびと依然いぜん劇場げきじょうへカタルシスをもとめてく。だが彼等かれら❺人的こじんてき苦惱くのうよりももつとおおきな時❸的じだいてき苦惱くのう背負せおつてる。彼等かれらもとめるカタルシスの概念がいねんそのものがすでかわつてるのだ。
 寫實しゃじつ主義しゅぎ時❸じだいにはカタルシスの概念がいねん❺❹的こべつてきであつた。可視的かしてき世界せかい描寫びょうしゃ人間にんげん性格せいかくのまことらしき再現さいげんつて人々ひとびと夫々それぞれ❷裡しんり❺❹的こべつてきなカタルシスをおこなつた。さら❷❷しんり主義しゅぎ演劇えんげきえざる人間にんげん❷❷しんり内❸ないめんへとふかめた。寫實しゃじつ主義しゅぎ❷❷しんり主義しゅぎむすびつくと、登場とうじょう人物じんぶつ外的がいてき表情ひょうじょう内的ないてき表情ひょうじょう複雜ふくざつ葛藤かっとうもっともらしい事件じけん出來できごとつうじて異樣いようあざやかに浮彫ふちょうされてるやうになつたがその感銘かんめい矢張やは❺❹的こべつてきなもので、❺人こじん々々こじん内的ないてき苦惱くのう❷❷的しんりてき❹鳴きょうめいぶにぎない場合ばあいおおい。
 ぼく人々ひとびとこころにもつと時❸じだい普遍的ふへんてきなカタルシスがおこなはれねばならないとおもふ。時❸じだいきて我々われわれ❹❷きょうつうな、切實せつじつ普遍ふへんてき感銘かんめいきてなければならない、とおもふ。それはもはや、寫實しゃじつ主義しゅぎ❷❷しんり主義しゅぎすところではない。今日こんにち人間にんげんたち❹❷きょうつう不幸ふこう矛盾むじゅん不條❷ふじょうりあるひはまた我々われわれのぞ何等なんらかの可能性かのうせいたいして作者さくしゃいだく「思想しそう」のみがそのことをすであらう。おのれの思想的しそうてき貧困ひんこんなげわか劇作家げきさっか朝夕あさゆう反省はんせいしてまぬ命題めいだいである。

コンテンツこんてんつ 


作品さくひんめいうつくしいだけではにあはない
著者ちょしゃめい加藤かとう 道夫みちお


 げきとは元來がんらい本質的ほんしつてきはなせぬ關係かんけいにあるが、「思想しそう」がげき不可ふかけつのものであるとはとくひきれない。我々われわれは「思想しそう」のないげきにはきるほどれてたし、うつくしいとか面白おもしろいとかてん稱讃しょうさんもしてた。思想しそうげき名稱めいしょう時期じきには「退屈たいくつ」の代名詞だいめいしようにさへ使つかはれてた。うつくしいのはいい。面白おもしろいのはいい。だが、うつくしいだけでは、面白おもしろいだけでははぬ時代じだいになつてしまつたやうである。げき思想性しそうせい反省はんせいされねばならぬときであらう。
 ぼくはこのごろでは、べつ斬新ざんしん奇拔きばつ戲曲ぎきょくきたいなどとはおもはないが、ただ舞臺ぶたいとおしてまこと今日的こんにちてき世界像せかいぞう人間像にんげんぞうぼく自身じしんイデエいでえたくしたいと切實せつじつねがひにしきりにとらへられる。新劇しんげきいままでのやうな日常的にちじょうてきしょう世界せかい描寫びょうしゃ心理しんり風俗ふうぞく展開てんかいからおおきな時代じだいドラマどらまにまで飛躍ひやくしてかねば、やがて命數めいすうきてしまのではないか、とさへおもふ。演劇えんげき言葉ことば多愛たわいもない娯樂ごらくためだとか、さやかな心理的しんりてき共鳴きょうめいためにのみあるべき時代じだいではなくなつたやうである。人々ひとびと依然いぜん劇場げきじょうカタルシスかたるしすもとめてく。だが彼等かれら個人的こじんてき苦惱くのうよりももつとおおきな時代的じだいてき苦惱くのう背負せおつてる。彼等かれらもとめるカタルシスかたるしす概念がいねんそのものがすでかわつてるのだ。
 寫實しゃじつ主義しゅぎ時代じだいにはカタルシスかたるしす概念がいねん個別的こべつてきであつた。可視的かしてき世界せかい描寫びょうしゃ人間にんげん性格せいかくのまことらしき再現さいげんつて人々ひとびと夫々それぞれ心裡しんり個別的こべつてきカタルシスかたるしすおこなつた。さら心理しんり主義しゅぎ演劇えんげきえざる人間にんげん心理しんり内面ないめんへとふかめた。寫實しゃじつ主義しゅぎ心理しんり主義しゅぎむすびつくと、登場とうじょう人物じんぶつ外的がいてき表情ひょうじょう内的ないてき表情ひょうじょう複雜ふくざつ葛藤かっとうもっともらしい事件じけん出來できごとつうじて異樣いようあざやかに浮彫ふちょうされてるやうになつたがその感銘かんめい矢張やは個別的こべつてきなもので、個人こじん々々こじん内的ないてき苦惱くのう心理的しんりてき共鳴きょうめいぶにぎない場合ばあいおおい。
 ぼく人々ひとびとこころにもつと時代じだい普遍的ふへんてきカタルシスかたるしすおこなはれねばならないとおもふ。時代じだいきて我々われわれ共通きょうつうな、切實せつじつ普遍ふへんてき感銘かんめいきてなければならない、とおもふ。それはもはや、寫實しゃじつ主義しゅぎ心理しんり主義しゅぎすところではない。今日こんにち人間にんげんたち共通きょうつう不幸ふこう矛盾むじゅん不條理ふじょうりあるひはまた我々われわれのぞ何等なんらかの可能性かのうせいたいして作者さくしゃいだく「思想しそう」のみがそのことをすであらう。おのれの思想的しそうてき貧困ひんこんなげわか劇作家げきさっか朝夕あさゆう反省はんせいしてまぬ命題めいだいである。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.49749(旧字旧仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/001240/card49749.html https://www.aozora.gr.jp/cards/001240/files/49749_69335.html 底本:「加藤道夫全集(全一卷)」新潮社    1955(昭和30)年9月30日発行 初出:「俳優座六月公演パンフレット」    1952(昭和27)年 入力:鈴木厚司 校正:きゅうり
■ 漢字の説明( Explanation of kanji ) 

シン・こころ・▲うら
heartはーとmindまいんどcoreこあ

リ・▲ことわり・▲すじ・▲おさめる
reasonりーずん

コウ・ギョウ・㋙アン・く・く・おこなう・▲る・▲みち
goごーdoどぅ

ツウ・㋙ツ・とおる・とおす・かよ
passぱす throughするーexpertえきすぱーと

ダイ・タイ・わる・える・・㊥しろ
substituteさぶすてぃちゅーとgenerationじぇねれーしょん

ビ・▲ミ・うつくしい・▲い・▲める
beautyびゅーてぃ

メン・▲ベン・㊥おも・㊥おもて・㊥つら・▲
surfaceさーふぇぃすfaceふぇぃす

キョウ・とも
bothぼすallおーるwithうぃずandあんど

ベツ・▲ベチ・わかれる・▲ける・▲わか
separateせぱれーと

コ・▲カ
individualいんでぃびじゅある
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小2 ❷MojnaviGoogleBing
2小2 ❷MojnaviGoogleBing
3小2 ❷MojnaviGoogleBing
4小2 ❷MojnaviGoogleBing
5小3 ❸MojnaviGoogleBing
6小3 ❸MojnaviGoogleBing
7小3 ❸MojnaviGoogleBing
8小4 ❹MojnaviGoogleBing
9小4 ❹MojnaviGoogleBing
10小5 ❺MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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