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ルビ付きテキスト

第20話 月蝕・夢野久作(新字新仮名)


■ 伏字ふせじ漢字かんじ

※ ❶いち~から❻ろくは小1しょういち~から小6しょうろく、❼ななは中学ちゅうがくで覚おぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小2,❷: 分 , 切 , 地 , 線 , 顔 , 黒
小3,❸: 暗 , 血
中学,❼: 彼 , 込

■ 学習がくしゅうコンテンツ  

※ 読よみ仮名がなで漢字『かんじ』(『かんじ』)の様ように括弧かっこの付ついた漢字かんじは原書げんしょで読よみ仮名がなが付ついている漢字かんじです。


作品さくひん名めい:月蝕げっしょく
著者ちょしゃ名めい:夢野ゆめの久作きゅうさく

   ★

鋼『はがね』のように澄すみわたる大空おおぞらのまん中なかで
月つきがすすり泣ないている。
………けがらわしい❷球ちきゅうの陰影『かげ』が
自❷じぶんの❷かおにうつるとて…………
それを大勢おおぜいの人間にんげんから見みられるとて…………
…………身みぶるいして嫌いやがっている。

   ★

………しかし………
逃のがれられぬ❸くらい運命うんめいは…………
刻々こっこくに❼女かのじょに迫せまって来くる。
大空おおぞらのただ中なかに…………

   ★

……はじまった……
月蝕げっしょくが…………

   ★

❼女かのじょはいつとなく死相しそうをあらわして来きた。
水々みずみずしい生白なましろい頬ほお…………
……目めに見みえぬ髪毛かみのけを、長々ながながと❷平❷ちへいせんまで引ひきはえた………
それが冷つめたく……美うつくしく……透すきとおる……
 コメカミのあたりから水気『すいき』が…………ヒッソリとしたたる。

   ★

❼女かのじょはもう…………
仕方しかたがないとあきらめて
❸くらい…………醜みにくい運命うんめいの手てに…………
自❷じぶんの美びをまかせてしまうつもりらしい。

   ★

顋『あご』のあたりが
すこしばかり❷きり欠かかれる。
…………❷くろい❸ちがムルムルと湧わく。
…………❸くらい腥『なまぐさ』いにおいが大空おおぞらに流ながれ出だす。
…………それが一面いちめんに❷平❷ちへいせんまで拡ひろがってゆく。
❼女かのじょを取巻とりまく星ほしの光ひかりがギラギラと冴さえかえった。

   ★

❼女かのじょの瞼『まぶた』が一ひとしきりふるえて
やがて力ちからなく黝『くろ』ずんで来くる。
鼻はなの横よこに❷くろい❸ちの磈『かたまり』が盛もり上あげる。
…………深ふかく斬❼きりこまれた刃『やいば』の蔭かげに
赤茶気あかちゃけた肉にくがヒクメク。

   ★

世界せかいは❸くらくなった。
すべての生物せいぶつは鉛なまりのように重おもたく
針はりのように痛々いたいたしい心こころを
ジッと抱いだいて動うごかなくなった。

   ★

けれども❸くらい……鋼鉄こうてつよりもよく❷きれる円形えんけいの刃『やいば』は
❼女かのじょの青あおざめた横頬よこっつらを
なおもズンズンと斬きり❼こんでゆく。
そこから溢あふれ出でる❸くらい…………腥なまぐさいにおいにすべては溺おぼれ❼こんでゆく。
…………山やまも…………海うみも…………森もりも…………家いえも…………道路どうろも…………
…………そこいらから見上みあげている人間にんげんたちも…………

   ★

その中なかにただ一ひとつ残のこる白しろい光ひかり…………
❼女かのじょの額がくと鼻はなすじが
もうすこしで…………
❷くろい刃『やいば』の蔭かげに蔽おおわれそうになった。

   ★

空一面そらいちめんの夥『おびただ』しい星ほしが
小ちいさな声こえで囁『ささや』き合あって
又またヒッソリと静しずまった。

   ★

陰惨いんさんな最後さいごの時とき…………
❷かおを蔽おおいつくす❸ちの下したに
観念かんねんして閉とじていた白しろい瞼まぶたを
パッチリと❼女かのじょは見開みひらいた。

   ★

案外あんがいに平気へいきな❷かおで
下界げかいの人々ひとびとを流ながし眼めに見みまわした
ニッコリと笑わらった。

   ★

…………ホホホホホホホ……
これはお芝居しばいなのよ。
……大空おおぞらの影かげと光ひかりりの……。
だから妾『わたし』は痛いたくも苦くるしくも………
……何なんともないのよ…………
そうしてもうじきおしまいになるのよ。

   ★

…………でも皆みなさんホントになすったでしょう。
……あたし名優めいゆうでしょう……
オホホホホホ……………

   ★

ではサヨウナラ…………
みなさんおやすみなさい。
……ホホホホホ……………………
ホホホホホ……………………………

■ コンテンツこんてんつ  


作品さくひん名めい:月蝕げっしょく
著者ちょしゃ名めい:夢野ゆめの久作きゅうさく

   ★

鋼『はがね』のように澄すみわたる大空おおぞらのまん中なかで
月つきがすすり泣ないている。
………けがらわしい地球ちきゅうの陰影『かげ』が
自分じぶんの顔かおにうつるとて…………
それを大勢おおぜいの人間にんげんから見みられるとて…………
…………身みぶるいして嫌いやがっている。

   ★

………しかし………
逃のがれられぬ暗くらい運命うんめいは…………
刻々こっこくに彼女かのじょに迫せまって来くる。
大空おおぞらのただ中なかに…………

   ★

……はじまった……
月蝕げっしょくが…………

   ★

彼女かのじょはいつとなく死相しそうをあらわして来きた。
水々みずみずしい生白なましろい頬ほお…………
……目めに見みえぬ髪毛かみのけを、長々ながながと地平線ちへいせんまで引ひきはえた………
それが冷つめたく……美うつくしく……透すきとおる……
 コメカミこめかみのあたりから水気『すいき』が…………ヒッソリひっそりとしたたる。

   ★

彼女かのじょはもう…………
仕方しかたがないとあきらめて
暗くらい…………醜みにくい運命うんめいの手てに…………
自分じぶんの美びをまかせてしまうつもりらしい。

   ★

顋『あご』のあたりが
すこしばかり切きり欠かかれる。
…………黒くろい血ちがムルムルむるむると湧わく。
…………暗くらい腥『なまぐさ』いにおいが大空おおぞらに流ながれ出だす。
…………それが一面いちめんに地平線ちへいせんまで拡ひろがってゆく。
彼女かのじょを取巻とりまく星ほしの光ひかりがギラギラぎらぎらと冴さえかえった。

   ★

彼女かのじょの瞼『まぶた』が一ひとしきりふるえて
やがて力ちからなく黝『くろ』ずんで来くる。
鼻はなの横よこに黒くろい血ちの磈『かたまり』が盛もり上あげる。
…………深ふかく斬込きりこまれた刃『やいば』の蔭かげに
赤茶気あかちゃけた肉にくがヒクメクひくめく。

   ★

世界せかいは暗くらくなった。
すべての生物せいぶつは鉛なまりのように重おもたく
針はりのように痛々いたいたしい心こころを
ジッじっと抱いだいて動うごかなくなった。

   ★

けれども暗くらい……鋼鉄こうてつよりもよく切きれる円形えんけいの刃『やいば』は
彼女かのじょの青あおざめた横頬よこっつらを
なおもズンズンずんずんと斬きり込こんでゆく。
そこから溢あふれ出でる暗くらい…………腥なまぐさいにおいにすべては溺おぼれ込こんでゆく。
…………山やまも…………海うみも…………森もりも…………家いえも…………道路どうろも…………
…………そこいらから見上みあげている人間にんげんたちも…………

   ★

その中なかにただ一ひとつ残のこる白しろい光ひかり…………
彼女かのじょの額がくと鼻はなすじが
もうすこしで…………
黒くろい刃『やいば』の蔭かげに蔽おおわれそうになった。

   ★

空一面そらいちめんの夥『おびただ』しい星ほしが
小ちいさな声こえで囁『ささや』き合あって
又またヒッソリひっそりと静しずまった。

   ★

陰惨いんさんな最後さいごの時とき…………
顔かおを蔽おおいつくす血ちの下したに
観念かんねんして閉とじていた白しろい瞼まぶたを
パッチリぱっちりと彼女かのじょは見開みひらいた。

   ★

案外あんがいに平気へいきな顔かおで
下界げかいの人々ひとびとを流ながし眼めに見みまわした
ニッコリにっこりと笑わらった。

   ★

…………ホホホホホホホほほほほほほほ……
これはお芝居しばいなのよ。
……大空おおぞらの影かげと光ひかりりの……。
だから妾『わたし』は痛いたくも苦くるしくも………
……何なんともないのよ…………
そうしてもうじきおしまいになるのよ。

   ★

…………でも皆みなさんホントほんとになすったでしょう。
……あたし名優めいゆうでしょう……
オホホホホホおほほほほほ……………

   ★

ではサヨウナラさようなら…………
みなさんおやすみなさい。
……ホホホホホほほほほほ……………………
ホホホホホほほほほほ……………………………

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.2378(新字旧仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card2378.html https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/2378_13519.html 底本:「夢野久作全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1992(平成4)年8月24日第1刷発行 底本の親本:「日本探偵小説全集 第十一篇 夢野久作集」改造社    1929(昭和4)年12月3日発行 入力:柴田卓治 校正:しず
■ 漢字の説明( Explanation of kanji )  
❷
分
ブン・フン・ブ・分わける・分わかれる・分わかる・分わかつ
divideでばいど
❷
切
セツ・㊥サイ・切きる・切きれる
cutかっと
❷
地
チ・ジ・▲地つち・▲地ところ
earthあーす ,groundぐらうんど
❷
線
セン・▲線いと・▲線すじ
lineらいん
❷
顔
ガン・顔かお・▲顔かんばせ
faceふぇいす
❷
黒
コク・黒くろ・黒くろい
blackぶらっく
❸
暗
アン・暗くらい・▲暗やみ・▲暗そらんじる
darkだーく ,toとぅ memorizeめもらいず
❸
血
ケツ・▲ケチ・血ち
bloodぶらっど
❼
彼
ヒ・彼かれ・彼かの
heひー
❼
込
込こむ・込こめる
includedいんくるーでっど
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小2 ❷分MojnaviGoogleBing
2小2 ❷切MojnaviGoogleBing
3小2 ❷地MojnaviGoogleBing
4小2 ❷線MojnaviGoogleBing
5小2 ❷顔MojnaviGoogleBing
6小2 ❷黒MojnaviGoogleBing
7小3 ❸暗MojnaviGoogleBing
8小3 ❸血MojnaviGoogleBing
9中学 ❼彼MojnaviGoogleBing
10中学 ❼込MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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