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第22話 プレスの操作に手工業を加味・豊田喜一郎(旧字旧仮名)


伏字ふせじ漢字かんじ

いちからろく小1しょういちから小6しょうろくなな中学ちゅうがくおぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小2,❷: 米
小3,❸: 業 , 究
小4,❹: 量
小5,❺: 型
中学,❼: 依 , 又 , 如 , 押 , 更

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仮名がな漢字『かんじ』(『かんじ』)のよう括弧かっこいた漢字かんじ原書げんしょ仮名がないている漢字かんじです。


作品さくひんめいプレスの操作そうさ手工業しゅこうぎょう加味かみ
――豐田とよた常務じょうむ苦心談くしんだん――
著者ちょしゃめい豊田とよだ喜一郎きいちろう

 乘用じょうようしゃ製作せいさくするにあたつてもっと苦心くしんようするのはボデーのプレスの問題もんだいである。自動車じどうしゃ製造せいぞう工❸こうぎょう最近さいきん政府せいふ製造せいぞう事❸法じぎょうほう制定せいていなど漸次ぜんじ政策的せいさくてきには確立かくりつあるのであるが、技術的ぎじゅつてきにはまだまだ萠芽ほうがでない。しかるにもかかわらず自動車じどうしゃ需要じゅよう産❸さんぎょうじょう國防こくぼうじょう相當そうとう程度ていど大❹たいりょう生産せいさん要求ようきゅうしてるのであるから、ボデーの製作せいさくにはうしてもプレスをもちねばならぬし、また國産こくさんしゃのコストを低下ていかせしめるためにもこれ必要ひつようとするのである。ようするに搖籃ようらん技術ぎじゅつもっ國策こくさくじょう要求ようきゅう❼何いかにして充足じゅうそくするかといふゆうてん製作者せいさくしゃとしては重大じゅうだい考慮こうりょようさねばならぬのであるがプレスの問題もんだい中心ちゅうしんに、みぎ問題もんだい解決かいけつかんし、常務じょうむ豐田とよた喜一郎きいちろう初夏しょかのさるひだりごと興味きょうみある談話だんわをなした。


 自動車じどうしゃ工❸こうぎょうはじめるについて、ボデーの製作せいさく❼何いかようにするかとことだれしも逢着ほうちゃくする一大いちだい難問題なんもんだいである。
 やすくていボデーを❷國べいこくほど大❹たいりょう生産せいさんではなくしてつくよう研❸けんきゅうせねばならぬ、このこと國産こくさんしゃ製造せいぞうさいして第一だいいちかんがへねばならないてんである。また毎年まいとしかた變❼へんこうしなくても外國がいこくしゃとの競爭きょうそうじょうそれほど見劣みおとりがしないよう設計せっけいする必要ひつようがあることつまりこれ國産こくさん自動車じどうしゃ工❸こうぎょう確立かくりつじょう第二だいに考❸こうきゅうすべき重點じゅうてんである。わたくし自動車じどうしゃ工❸こうぎょうはじめるにあたり、みぎ二大にだい難關なんかん❼何いかにして解決かいけつしやうかといふゆうてん非常ひじょう研❸けんきゅうてき衝動しょうどうおぼえ、目下もっかこれ目的もくてき貫徹かんてつため日夜にちや努力どりょくしてよう次第しだいである。
 わがしゃ方針ほうしん經濟けいざいしゃ生産せいさんるのであるから、資本しほんいくけてもよい、コストがんなにたかくなつてもかまはないといふゆうわけにはかない。
 また❷國べいこく毎年まいとしかたへるのに對抗たいこうするにはわれ/\われとしては程度ていどまで矢張やは新❺しんがたしてかねばならぬ。
 ひとつのかた❷國べいこくよう何十なんじゅう萬臺まんだいぶんせるならばかた相當そうとうかねけてもいが、わがくに自動車じどうしゃたいする需要じゅようからて、ねんにせい/\ぜい二萬にまん三萬さんまんだいぶんせば結構けっこうなのであるから、かたにのみさうそう/\そう資本しほんとうずるわけにはくまい。だからといつて五年ごねん十年じゅうねん一種類いっしゅるいかたとどまれるものではなく、結局けっきょく二、三にさんねん一度いちどはその變❼へんこう必要ひつようである。
 かんがると一種類いっしゅるいかた五、六ごろく萬臺まんだいせば、もう新❺しんがた考慮こうりょせねばならず、かただい可成かなおおきな金額きんがくたっすることになる。こころみにその見積みつもり❷國べいこくらしてたら、一通ひととおりの外廻そとまわりだけでやく五十ごじゅうまんえん完全かんぜんととのへると百五十ひゃくごじゅうまんえんぐらいはかるといふゆうことわかつたのであるが、こんな状態じょうたいでは經濟けいざいしゃない。
 それでは外國人がいこくじん技師ぎしやといれてはうか、勿論もちろん外人がいじん技師ぎしりればかたるであらう。しかし彼等かれら所謂いわゆるアメリカしき大❹たいりょう生産せいさん手段しゅだんまま輸入ゆにゅうするのではないか、さうだとすればアメリカのごとなんじゅう萬臺まんだいぶん一度いちど❼出おしだところではよいが、四、五しご萬臺まんだいつくつたら、もう新❺しんがたへねばならぬようなわがくに事情じじょうにはこのかた適當てきとうでない。
 そこでわたくし一切いっさい外國がいこくじんりずに、日本にほんじん獨特どくとくかんがかた日本にほん現状げんじょうてきするようかた設計せっけい製作せいさくしなくてはならぬと決心けっしんしたが、結局けっきょくアメリカしきのプレスに大❹たいりょう生産せいさん設備せつび日本人にほんじんでなくては持合もちあわせない手先てさき器用きようさを利用りよう併用へいようしやうとかんがいたのである。
 さて大❹たいりょう生産せいさんせいに、いは日本人にほんじんりゅう手工しゅこうてき方法ほうほう加味かみするには具體的ぐたいてき❼何いかなる方法ほうほうによつたらいか。
 たとへば外國がいこくでは一種いっしゅのものを完成かんせいするのに四❺よんかた五❺ごかた使用しようする場合ばあいがあるが、わがしゃでは吾々われわれ手先てさきでプレスと同等どうとう効果こうかおさ部分ぶぶんたいしてはこの手先てさき器用きようせい利用りようし、これによつて極力きょくりょくかた節約せつやくはかると同時どうじに、ボデーの安價あんか生産せいさん目的もくてきたっせんとしてるのである。
 みぎごときプランにもとづ愈々いよいよこれ實行じつぎょううつしてみると、じつすう十人じゅうにん職工しょっこう激勵げきれい使用しようして二ヶ年にかねん日子にっしようし、このほどようやくその大半たいはん目的もくてきたっこれなら世間せけん批評ひひょうあおいでも大丈夫だいじょうぶいふゆう確信かくしんられる成功せいこうおさめたのである。
 もとよりわたくしこれもっ我事わがことれりとみずか慢心まんしんしてるものではなく爾來じらい益々ますます研❸けんきゅう研❸けんきゅうかさねて次第しだいである。
 大❹たいりょう生産せいさんせい手工しゅこうてき方法ほうほう加味かみじつわがくに最初さいしょこころみであつて、わたくしとしてはわがしゃ現在げんざい方法ほうほうもってするも尚且なおか❷國べいこく年々ねんねん出現しゅつげんする新❺しんがた追隨ついずいるやを危惧きぐしてるのであつて、今後こんご一層いっそう研❸けんきゅう相俟あいまつてわがしゃ二三にさん萬臺まんだい製造せいぞうする原價げんか❷國べいこく數十すうじゅう萬臺まんだいのコストとをあい匹敵ひってきせしめさらこれより引下ひきさげんこと目標もくひょうとして次第しだいである。

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作品さくひんめいプレスぷれす操作そうさ手工業しゅこうぎょう加味かみ
――豐田とよた常務じょうむ苦心談くしんだん――
著者ちょしゃめい豊田とよだ喜一郎きいちろう

 乘用じょうようしゃ製作せいさくするにあたつてもっと苦心くしんようするのはボデーぼでープレスぷれす問題もんだいである。自動車じどうしゃ製造せいぞう工業こうぎょう最近さいきん政府せいふ製造せいぞう事業法じぎょうほう制定せいていなど漸次ぜんじ政策的せいさくてきには確立かくりつあるのであるが、技術的ぎじゅつてきにはまだまだ萠芽ほうがでない。しかるにもかかわらず自動車じどうしゃ需要じゅよう産業さんぎょうじょう國防こくぼうじょう相當そうとう程度ていど大量たいりょう生産せいさん要求ようきゅうしてるのであるから、ボデーぼでー製作せいさくにはうしてもプレスぷれすもちねばならぬし、また國産こくさんしゃコストこすと低下ていかせしめるためにもこれ必要ひつようとするのである。ようするに搖籃ようらん技術ぎじゅつもっ國策こくさくじょう要求ようきゅう如何いかにして充足じゅうそくするかといふゆうてん製作者せいさくしゃとしては重大じゅうだい考慮こうりょようさねばならぬのであるがプレスぷれす問題もんだい中心ちゅうしんに、みぎ問題もんだい解決かいけつかんし、常務じょうむ豐田とよた喜一郎きいちろう初夏しょかのさるひだりごと興味きょうみある談話だんわをなした。


 自動車じどうしゃ工業こうぎょうはじめるについて、ボデーぼでー製作せいさく如何いかようにするかとことだれしも逢着ほうちゃくする一大いちだい難問題なんもんだいである。
 やすくてボデーぼでー米國べいこくほど大量たいりょう生産せいさんではなくしてつくよう研究けんきゅうせねばならぬ、このこと國産こくさんしゃ製造せいぞうさいして第一だいいちかんがへねばならないてんである。また毎年まいとしかた變更へんこうしなくても外國がいこくしゃとの競爭きょうそうじょうそれほど見劣みおとりがしないよう設計せっけいする必要ひつようがあることつまりこれ國産こくさん自動車じどうしゃ工業こうぎょう確立かくりつじょう第二だいに考究こうきゅうすべき重點じゅうてんである。わたくし自動車じどうしゃ工業こうぎょうはじめるにあたり、みぎ二大にだい難關なんかん如何いかにして解決かいけつしやうかといふゆうてん非常ひじょう研究けんきゅうてき衝動しょうどうおぼえ、目下もっかこれ目的もくてき貫徹かんてつため日夜にちや努力どりょくしてよう次第しだいである。
 わがしゃ方針ほうしん經濟けいざいしゃ生産せいさんるのであるから、資本しほんいくけてもよい、コストこすとんなにたかくなつてもかまはないといふゆうわけにはかない。
 また米國べいこく毎年まいとしかたへるのに對抗たいこうするにはわれ/\われとしては程度ていどまで矢張やは新型しんがたしてかねばならぬ。
 ひとつのかた米國べいこくよう何十なんじゅう萬臺まんだいぶんせるならばかた相當そうとうかねけてもいが、わがくに自動車じどうしゃたいする需要じゅようからて、ねんにせい/\ぜい二萬にまん三萬さんまんだいぶんせば結構けっこうなのであるから、かたにのみさうそう/\そう資本しほんとうずるわけにはくまい。だからといつて五年ごねん十年じゅうねん一種類いっしゅるいかたとどまれるものではなく、結局けっきょく二、三にさんねん一度いちどはその變更へんこう必要ひつようである。
 かんがると一種類いっしゅるいかた五、六ごろく萬臺まんだいせば、もう新型しんがた考慮こうりょせねばならず、かただい可成かなおおきな金額きんがくたっすることになる。こころみにその見積みつもり米國べいこくらしてたら、一通ひととおりの外廻そとまわりだけでやく五十ごじゅうまんえん完全かんぜんととのへると百五十ひゃくごじゅうまんえんぐらいはかるといふゆうことわかつたのであるが、こんな状態じょうたいでは經濟けいざいしゃない。
 それでは外國人がいこくじん技師ぎしやといれてはうか、勿論もちろん外人がいじん技師ぎしりればかたるであらう。しかし彼等かれら所謂いわゆるアメリカあめりかしき大量たいりょう生産せいさん手段しゅだんまま輸入ゆにゅうするのではないか、さうだとすればアメリカあめりかごとなんじゅう萬臺まんだいぶん一度いちど押出おしだところではよいが、四、五しご萬臺まんだいつくつたら、もう新型しんがたへねばならぬようなわがくに事情じじょうにはこのかた適當てきとうでない。
 そこでわたくし一切いっさい外國がいこくじんりずに、日本にほんじん獨特どくとくかんがかた日本にほん現状げんじょうてきするようかた設計せっけい製作せいさくしなくてはならぬと決心けっしんしたが、結局けっきょくアメリカあめりかしきプレスぷれす大量たいりょう生産せいさん設備せつび日本人にほんじんでなくては持合もちあわせない手先てさき器用きようさを利用りよう併用へいようしやうとかんがいたのである。
 さて大量たいりょう生産せいさんせいに、いは日本人にほんじんりゅう手工しゅこうてき方法ほうほう加味かみするには具體的ぐたいてき如何いかなる方法ほうほうによつたらいか。
 たとへば外國がいこくでは一種いっしゅのものを完成かんせいするのに四型よんかた五型ごかた使用しようする場合ばあいがあるが、わがしゃでは吾々われわれ手先てさきプレスぷれす同等どうとう効果こうかおさ部分ぶぶんたいしてはこの手先てさき器用きようせい利用りようし、これによつて極力きょくりょくかた節約せつやくはかると同時どうじに、ボデーぼでー安價あんか生産せいさん目的もくてきたっせんとしてるのである。
 みぎごとプランぷらんもとづ愈々いよいよこれ實行じつぎょううつしてみると、じつすう十人じゅうにん職工しょっこう激勵げきれい使用しようして二ヶ年にかねん日子にっしようし、このほどようやくその大半たいはん目的もくてきたっこれなら世間せけん批評ひひょうあおいでも大丈夫だいじょうぶいふゆう確信かくしんられる成功せいこうおさめたのである。
 もとよりわたくしこれもっ我事わがことれりとみずか慢心まんしんしてるものではなく爾來じらい益々ますます研究けんきゅう研究けんきゅうかさねて次第しだいである。
 大量たいりょう生産せいさんせい手工しゅこうてき方法ほうほう加味かみじつわがくに最初さいしょこころみであつて、わたくしとしてはわがしゃ現在げんざい方法ほうほうもってするも尚且なおか米國べいこく年々ねんねん出現しゅつげんする新型しんがた追隨ついずいるやを危惧きぐしてるのであつて、今後こんご一層いっそう研究けんきゅう相俟あいまつてわがしゃ二三にさん萬臺まんだい製造せいぞうする原價げんか米國べいこく數十すうじゅう萬臺まんだいコストこすととをあい匹敵ひってきせしめさらこれより引下ひきさげんこと目標もくひょうとして次第しだいである。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.53518(旧字旧仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/001362/card53518.html https://www.aozora.gr.jp/cards/001362/files/53518_56493.html 底本:「豊田喜一郎文書集成」名古屋大学出版会    1999(平成11)年4月15日初版第1刷発行 初出:「トヨダニュース 第二号」    1936(昭和11)年6月5日 入力:sogo 校正:塚本由紀
■ 漢字の説明( Explanation of kanji ) 

ベイ・マイ・▲メ・こめ・▲よね・▲めーとる
riceらいす

ギョウ・㋙ゴウ・㊥わざ
karmaかーまー

キュウ・▲ク・㊥きわめる・▲きわまる
ultimateあるてぃめーと

リョウ・はかる・▲かさ・▲ちから
amountあまうんとquantityくぁんたぁてぃvolumeぼりゅーむ

ケイ・かた
styleすたいるshapeしぇいぷmodelもでる

イ・㋙エ・▲
dependでぃぺんど onおん

ユウ・また・▲ふたた
onceわんす againあげん

ジョ・㋙ニョ・▲く・▲ごとし・▲く・▲
similarしみらー toとぅ

㋙オウ・す・さえる
pushingぷっしんぐ

コウ・さら・㋙ける・㋙かす・▲える・▲あらためる
renewりにゅー
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小2 ❷MojnaviGoogleBing
2小3 ❸MojnaviGoogleBing
3小3 ❸MojnaviGoogleBing
4小4 ❹MojnaviGoogleBing
5小5 ❺MojnaviGoogleBing
6中学 ❼MojnaviGoogleBing
7中学 ❼MojnaviGoogleBing
8中学 ❼MojnaviGoogleBing
9中学 ❼MojnaviGoogleBing
10中学 ❼MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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