Ago and New
ルビ付きテキスト

第29話 旗本移転後の始末・勝海舟(新字旧仮名)


伏字ふせじ漢字かんじ

いちからろく小1しょういちから小6しょうろくなな中学ちゅうがくおぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小1,❶: 八
小3,❸: 守 , 度 , 様
小4,❹: 岡
中学,❼: 沢 , 沼 , 泊 , 為 , 糧

学習がくしゅうコンテンツ 

仮名がな漢字『かんじ』(『かんじ』)のよう括弧かっこいた漢字かんじ原書げんしょ仮名がないている漢字かんじです。


作品さくひんめい旗本はたもと移転いてん始末しまつ
著者ちょしゃめいかつ海舟かいしゅう

 維新いしんさいきゅう旗本はたもと人々ひとびと静❹しずおかうつしたのはおよ❶万はちまんにんもあつたが、政府せいふでは十日とおかあいだうつしてしまへと注文ちゅうもんしたけれども、それは到底とうてい出来できないから二十日はつか猶予ゆうよねがつて汽船きせん二艘にそうもっ運搬うんぱんした。しかしその困難こんなん非常ひじょうなもので、一万いちまん二千にせんよりほかにない静❹しずおかへ、一時いっとき❶万はちまんにんはいむのだから、おれは自分じぶん農家のうかあいだ奔走ほんそうして、とにかくひとまづみなものしりえさせた。
 このとき❼津ぬまづ山間さんかん家作かさく随分ずいぶんおおきい旧家きゅうかがあつたがそこへ五十ごじゅうにんばかり宿やどらせて、おれもとも一❼いっぱくした、そのいえ主人しゅじんは、いま一寸ちょっとわすれたが、七十ななじゅうあまりの老人ろうじんで、おれに挨拶あいさつしていふには、拙者せっしゃいえ当地とうちでの旧家きゅうかだが、貴人きじん宿やどさせたのはこれで二❸目にどめだといから、二❸にどとは何時いつ々々いつふたら、むか本多ほんだ佐渡❸さどのかみさまめたのと、今夜こんやかつ安房❸あわのかみさまめるのだといふゆう本多ほんだ佐渡❸さどのかみめたことについては、なに記録きろくでもあるかとたずねたら、記録きろくはないけれども、口碑こうひつたはつてるといふゆうしからば、その仔細しさいかせよといつたら、老人ろうじんはなすには、それは太閣たいこうさま小田原おだわら征伐せいばつ一年いちねんまえで、明年みょうねんここへ十万じゅうまんへいるから、あらかじ❼米りょうまい馬秣まぐさ用意よういするため小吏やくにんではことはこばぬをおそれてか、本多ほんださま自分じぶんでここえ御出おいでになつたのだといふゆうしからば明年みょうねんになつて❼米りょうまい馬秣まぐさ如何いかにしたかとといふたら、こたへるには十万じゅうまんへいためこめかえつてやすくなつた。これは去年きょねんからみなひと❼山たくさんたくわへていたからだ。また上❸うえさま家康いえやす)の御仕合おしあわせには、❼津ぬまづ海岸かいがんつねなみあらくつて、❼米りょうまいなどを大船おおぶねから陸揚りくあげすることはむづかしいのに、この当時とうじには丁❸ちょうど天気てんきがよくつてなみおだやかであつたために、他国たこくからも❼米りょうまい容易ようい輸入ゆにゅうすることが出来できたからだ。それからといふゆうものは、この地方ちほうでは風波しけ平穏へいおんなのを、「上❸うえさま日和びより」としょうするとこたえた。古人こじんもちたのはむかしはこのとおりだ。さて、❶万はちまんにん静❹しずおかうつしてから、三四日さんよっかつと❼庵漬たくあんづけはなくなり、四五日しごにちつと塵紙ちりがみくなりおれもじつ狼狽ろうばいしたよ。

コンテンツこんてんつ 


作品さくひんめい旗本はたもと移転いてん始末しまつ
著者ちょしゃめいかつ海舟かいしゅう

 維新いしんさいきゅう旗本はたもと人々ひとびと静岡しずおかうつしたのはおよ八万はちまんにんもあつたが、政府せいふでは十日とおかあいだうつしてしまへと注文ちゅうもんしたけれども、それは到底とうてい出来できないから二十日はつか猶予ゆうよねがつて汽船きせん二艘にそうもっ運搬うんぱんした。しかしその困難こんなん非常ひじょうなもので、一万いちまん二千にせんよりほかにない静岡しずおかへ、一時いっとき八万はちまんにんはいむのだから、おれは自分じぶん農家のうかあいだ奔走ほんそうして、とにかくひとまづみなものしりえさせた。
 このとき沼津ぬまづ山間さんかん家作かさく随分ずいぶんおおきい旧家きゅうかがあつたがそこへ五十ごじゅうにんばかり宿やどらせて、おれもとも一泊いっぱくした、そのいえ主人しゅじんは、いま一寸ちょっとわすれたが、七十ななじゅうあまりの老人ろうじんで、おれに挨拶あいさつしていふには、拙者せっしゃいえ当地とうちでの旧家きゅうかだが、貴人きじん宿やどさせたのはこれで二度目にどめだといから、二度にどとは何時いつ々々いつふたら、むか本多ほんだ佐渡守さどのかみさまめたのと、今夜こんやかつ安房守あわのかみさまめるのだといふゆう本多ほんだ佐渡守さどのかみめたことについては、なに記録きろくでもあるかとたずねたら、記録きろくはないけれども、口碑こうひつたはつてるといふゆうしからば、その仔細しさいかせよといつたら、老人ろうじんはなすには、それは太閣たいこうさま小田原おだわら征伐せいばつ一年いちねんまえで、明年みょうねんここへ十万じゅうまんへいるから、あらかじ糧米りょうまい馬秣まぐさ用意よういするため小吏やくにんではことはこばぬをおそれてか、本多ほんださま自分じぶんでここえ御出おいでになつたのだといふゆうしからば明年みょうねんになつて糧米りょうまい馬秣まぐさ如何いかにしたかとといふたら、こたへるには十万じゅうまんへいためこめかえつてやすくなつた。これは去年きょねんからみなひと沢山たくさんたくわへていたからだ。また上様うえさま家康いえやす)の御仕合おしあわせには、沼津ぬまづ海岸かいがんつねなみあらくつて、糧米りょうまいなどを大船おおぶねから陸揚りくあげすることはむづかしいのに、この当時とうじには丁度ちょうど天気てんきがよくつてなみおだやかであつたために、他国たこくからも糧米りょうまい容易ようい輸入ゆにゅうすることが出来できたからだ。それからといふゆうものは、この地方ちほうでは風波しけ平穏へいおんなのを、「上様うえさま日和びより」としょうするとこたえた。古人こじんもちたのはむかしはこのとおりだ。さて、八万はちまんにん静岡しずおかうつしてから、三四日さんよっかつと沢庵漬たくあんづけはなくなり、四五日しごにちつと塵紙ちりがみくなりおれもじつ狼狽ろうばいしたよ。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.2405(新字旧仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/000354/card2405.html https://www.aozora.gr.jp/cards/000354/files/2405_21758.html 底本:「日本の名随筆 別巻95 明治」作品社    1999(平成11)年1月25日第1刷発行 底本の親本:「亡友帖・清譚と逸話 〔復刻原本=海舟全集第十巻〕」原書房    1968(昭和43)年4月20日 入力:ふろっぎぃ 校正:浅原庸子
■ 漢字の説明( Explanation of kanji ) 

ハチ・つ・やっつ・よう
eightえいと

シュ・ス・まもる・㊥もり・▲かみ
defendでぃふぇんど

ド・㋙ト・㊥タク・㊥たび・▲のり・▲めもり・▲わたる・▲はか
degreeでぐりーoccasionおけーじょんtimeたいむ

ヨウ・さま
appearanceあぴあらんすkindかいんど

コウ・おか
hillひる

タク・さわ・▲うるおう・つや
wetlandsうぇとらんず

㋙ショウ,ぬま
marshまーしゅ

ハク・まる・める
stayすてー atあっと

イ・▲す・▲る・▲ため・▲つくる・▲
greatぐれーと deedでぃーど

リョウ・㋙ロウ・㋙かて
foodふーど
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小1 ❶MojnaviGoogleBing
2小3 ❸MojnaviGoogleBing
3小3 ❸MojnaviGoogleBing
4小3 ❸MojnaviGoogleBing
5小4 ❹MojnaviGoogleBing
6中学 ❼MojnaviGoogleBing
7中学 ❼MojnaviGoogleBing
8中学 ❼MojnaviGoogleBing
9中学 ❼MojnaviGoogleBing
10中学 ❼MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
© 2020 agoandnew All rights reserved.