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ルビ付きテキスト

第56話 折紙・中勘助(新字新仮名)


伏字ふせじ漢字かんじ

いちからろく小1しょういちから小6しょうろくなな中学ちゅうがくおぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小1,❶: 円
小3,❸: 皿
小4,❹: 好 , 折
中学,❼: 桃 , 沈 , 涼 , 瞳 , 紺 , 鶴

学習がくしゅうコンテンツ 

仮名がな漢字『かんじ』(『かんじ』)のよう括弧かっこいた漢字かんじ原書げんしょ仮名がないている漢字かんじです。


作品さくひんめいおりがみ
著者ちょしゃめいなか勘助かんすけ


 わたくしはまたそのいもうととすごした海岸かいがんなつをわすれたことはない。あの松原まつばらのなかで潮風しおかぜかおりをかぎまつをこえてくるうみおとをききながら二人ふたりしておりものをしてあそんだとき、❶窓まるまどのそとにはなぎの若木わかぎがならんで砂地すなじのうえにすずしい❼色こんいろかげおとした。いもうとはふっくらとのいったながゆび❹紙おりがみをあちらこちらにたたみながらふくふくしたかおをかしげてひとごとをいったり、たわいもないことをいいかけたりする。つややかな丸髷『まるまげ』『ゆ』ってうすいろ珊瑚さんごたまをさしていた。❼色ももいろつるや、浅葱『あさぎ』のふくらすずめや、出来できたのをひとつひとつせてはつづけてゆく。わたくしいもうときあってなんのかのとかまいながらやっとのことで蓮花『れんげ』とだましぶねった。ここにあるひとたばの❹紙おりがみはなつかしいそのおりののこりである。あい『ひわ』朽葉『くちば』などおもりあってしまになったえんをみればおんなのしめる博多はかたおびおもいだす。そのめざましい鬱金『うこん』はあの待宵『まつよい』はないろ、いつぞやいもうとえたらば夜昼よるひるさかいにまどろむ黄昏たそがれ女神めがみゆめのようにほのぼのといた。このむらさき螢草『ほたるぐさ』ほたるきなくさゆえにわたくしきなくさである。わたくしはこんなにしていろばかりるのがたのしい。じっとつめていればひとみのなかへいこまれてゆくようながする。ようやくふでてるころからきで、使つかのこりのべにさらあねにねだってくちのはたをめながらさらのふちにあおひかべに『とか』して『あぶ』蜻蛉『とんぼ』をかいた。そののちやっとのおもいでちいさな絵具えのぐばこってもらいいちにち部屋へやじこもってくさ草紙ぞうしやなどうつしたが、なにもうつすものもなくえがくものもうかんでこないときはさらのうえにそれこれのいろをまぜてあらたにうまれるいろ不思議ふしぎをみはり、またいろみずおとしてくもかたち入道にゅうどうかたちしずんでゆくのにながった。さてもこの綺麗きれい色紙しきしはいつのかまたいもうとゆびたたまれてつるとなり、ふくらすずめとなるであろうか。

コンテンツこんてんつ 


作品さくひんめいおりがみ
著者ちょしゃめいなか勘助かんすけ


 わたくしはまたそのいもうととすごした海岸かいがんなつをわすれたことはない。あの松原まつばらのなかで潮風しおかぜかおりをかぎまつをこえてくるうみおとをききながら二人ふたりしておりものをしてあそんだとき、円窓まるまどのそとにはなぎの若木わかぎがならんで砂地すなじのうえにすずしい紺色こんいろかげおとした。いもうとはふっくらとのいったながゆび折紙おりがみをあちらこちらにたたみながらふくふくしたかおをかしげてひとごとをいったり、たわいもないことをいいかけたりする。つややかな丸髷『まるまげ』『ゆ』ってうすいろ珊瑚さんごたまをさしていた。桃色ももいろつるや、浅葱『あさぎ』のふくらすずめや、出来できたのをひとつひとつせてはつづけてゆく。わたくしいもうときあってなんのかのとかまいながらやっとのことで蓮花『れんげ』とだましぶねった。ここにあるひとたばの折紙おりがみはなつかしいそのおりののこりである。あい『ひわ』朽葉『くちば』などおもりあってしまになったえんをみればおんなのしめる博多はかたおびおもいだす。そのめざましい鬱金『うこん』はあの待宵『まつよい』はないろ、いつぞやいもうとえたらば夜昼よるひるさかいにまどろむ黄昏たそがれ女神めがみゆめのようにほのぼのといた。このむらさき螢草『ほたるぐさ』ほたるきなくさゆえにわたくしきなくさである。わたくしはこんなにしていろばかりるのがたのしい。じっとつめていればひとみのなかへいこまれてゆくようながする。ようやくふでてるころからきで、使つかのこりのべにさらあねにねだってくちのはたをめながらさらのふちにあおひかべに『とか』して『あぶ』蜻蛉『とんぼ』をかいた。そののちやっとのおもいでちいさな絵具えのぐばこってもらいいちにち部屋へやじこもってくさ草紙ぞうしやなどうつしたが、なにもうつすものもなくえがくものもうかんでこないときはさらのうえにそれこれのいろをまぜてあらたにうまれるいろ不思議ふしぎをみはり、またいろみずおとしてくもかたち入道にゅうどうかたちしずんでゆくのにながった。さてもこの綺麗きれい色紙しきしはいつのかまたいもうとゆびたたまれてつるとなり、ふくらすずめとなるであろうか。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.57411(新字新仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/001799/card57411.html https://www.aozora.gr.jp/cards/001799/files/57411_58812.html 底本:「日本の名随筆68 紙」作品社    1988(昭和63)年6月25日第1刷発行 底本の親本:「中勘助随筆集」岩波文庫、岩波書店    1985(昭和60)年6月 入力:門田裕志 校正:noriko saito
■ 漢字の説明( Explanation of kanji ) 

エン・まるい・▲まどか・▲つぶらか・▲まろやか
circleさーくる

▲ベイ・さら
dishでぃしゅplateぷれーとsaucerそーさー

コウ・このむ・く・▲い・▲よしみ
likingらいきんぐfavorふぇいばーfondnessふぁんどにすfriendshipふれんどしっぷ

セツ・▲シャク・る・り・れる・▲くじける・▲さだめる
foldふぉるどbreakぶれーくoccasionおけっしょん

トウ・もも
peachぴーち

チン・▲ジン・しずむ・しずめる
sinkしんくgoごー underあんだー

リョウ・すずしい・すずむ・▲うす
coolくーる breezeぶれいずrefreshingりふれっしんぐ

ドウ・▲トウ・ひとみ
pupilぴゅぴる

コン
navyねいびー blueぶるーdeepでぃーぷ blueぶるー

▲カク・つる
craneくれいん
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小1 ❶MojnaviGoogleBing
2小3 ❸MojnaviGoogleBing
3小4 ❹MojnaviGoogleBing
4小4 ❹MojnaviGoogleBing
5中学 ❼MojnaviGoogleBing
6中学 ❼MojnaviGoogleBing
7中学 ❼MojnaviGoogleBing
8中学 ❼MojnaviGoogleBing
9中学 ❼MojnaviGoogleBing
10中学 ❼MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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