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ルビ付きテキスト

第57話 私のふるさと・中谷宇吉郎(新字新仮名)


伏字ふせじ漢字かんじ

いちからろく小1しょういちから小6しょうろくなな中学ちゅうがくおぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小3,❸: 湖
小5,❺: 祖
小6,❻: 晩 , 泉
中学,❼: 与 , 唄 , 坊 , 朴 , 枕 , 津

学習がくしゅうコンテンツ 

仮名がな漢字『かんじ』(『かんじ』)のよう括弧かっこいた漢字かんじ原書げんしょ仮名がないている漢字かんじです。


作品さくひんめいわたくしのふるさと
著者ちょしゃめいなか きちろう

 わたくしのふるさとは、石川いしかわけんかた山❼やまづ温❻おんせんである。柴山潟『しばやまがた』みずうみのほとりにあって、わたくし子供こどものころは、まださびしい❸畔こはんちいさい温❻おんせんであった。
 この『かた』にはあしが一面いちめんえていて、“ばん”とくろ水鳥みずとりが、たくさんんでいた。いずみ鏡花きょうか小説しょうせつにもてくるが、この“ばん”ととりは、なんとなくこのばなれをしたかんじをあたえるとりである。おんなのたましいをおもわすようなをしている。それも玄人くろうとふうおんなである。
 温❻おんせんであるから、毎❻まいばんのように三味線しゃみせんおとおんな❼声うたごえなどが、宿屋やどやあかるいまどれて、くらみずうみ『おも』えていくとうようなぜいがあった。もっともそのころはまだ電灯でんとうのなかったころで、まちくらく、それにひどい田舎いなか温❻おんせんのことであるから、いろっぽいところがあったといっても、きわめて素❼そぼくなものであった。
 北陸ほくりく地方ちほうのことであるから、ふゆになると、よくゆきやみぞれをまじえたつよかぜいた。そういうときは、温❻おんせん宿やどにもほとんどきゃくがなく、みずうみがまるでうみのようにれた。そのなみおとが、ゆかなかまでひびき、まくらもとのランプのちいさいがゆらゆらとうごいた。じまりのわる田舎いなかいえは、いろいろなところが、がたがたとった。
 そういうばんは、わたくしおとうとは、❺母そぼゆかにもぐりみ、そのりょうわきにぴったりとをよせてねた。❺母そぼは、天狗てんぐはなしだの、うみ❼主ぼうずはなしだのをよくしてくれた。ちかくのどこそこの子供こども天狗てんぐにさらわれたり、となむらなに兵衛ひょうえさんが、今夜こんやのようなばんに、かたていて、うみぼうったりしたはなしである。❺母そぼわか時代じだいには、そういうものが、このみずうみのほとりには実際じっさいにいたのである。
 しょう学校がっこうへはいると同時どうじに、わたくしはこの土地とちはなれたので、おんせん姿すがたそのもののいんしょうはうすい。わたくしのふるさとは、この❺母そぼはなしなか一番いちばんおおきているようである。

 (昭和しょうわじゅうろくねんがつ放送ほうそう

コンテンツこんてんつ 


作品さくひんめいわたくしのふるさと
著者ちょしゃめいなか きちろう

 わたくしのふるさとは、石川いしかわけんかた山津やまづ温泉おんせんである。柴山潟『しばやまがた』みずうみのほとりにあって、わたくし子供こどものころは、まださびしい湖畔こはんちいさい温泉おんせんであった。
 この『かた』にはあしが一面いちめんえていて、“ばん”とくろ水鳥みずとりが、たくさんんでいた。いずみ鏡花きょうか小説しょうせつにもてくるが、この“ばん”ととりは、なんとなくこのばなれをしたかんじをあたえるとりである。おんなのたましいをおもわすようなをしている。それも玄人くろうとふうおんなである。
 温泉おんせんであるから、毎晩まいばんのように三味線しゃみせんおとおんな唄声うたごえなどが、宿屋やどやあかるいまどれて、くらみずうみ『おも』えていくとうようなぜいがあった。もっともそのころはまだ電灯でんとうのなかったころで、まちくらく、それにひどい田舎いなか温泉おんせんのことであるから、いろっぽいところがあったといっても、きわめて素朴そぼくなものであった。
 北陸ほくりく地方ちほうのことであるから、ふゆになると、よくゆきやみぞれをまじえたつよかぜいた。そういうときは、温泉おんせん宿やどにもほとんどきゃくがなく、みずうみがまるでうみのようにれた。そのなみおとが、ゆかなかまでひびき、まくらもとのランプらんぷちいさいがゆらゆらとうごいた。じまりのわる田舎いなかいえは、いろいろなところが、がたがたとった。
 そういうばんは、わたくしおとうとは、祖母そぼゆかにもぐりみ、そのりょうわきにぴったりとをよせてねた。祖母そぼは、天狗てんぐはなしだの、うみ坊主ぼうずはなしだのをよくしてくれた。ちかくのどこそこの子供こども天狗てんぐにさらわれたり、となむらなに兵衛ひょうえさんが、今夜こんやのようなばんに、かたていて、うみぼうったりしたはなしである。祖母そぼわか時代じだいには、そういうものが、このみずうみのほとりには実際じっさいにいたのである。
 しょう学校がっこうへはいると同時どうじに、わたくしはこの土地とちはなれたので、おんせん姿すがたそのもののいんしょうはうすい。わたくしのふるさとは、この祖母そぼはなしなか一番いちばんおおきているようである。

 (昭和しょうわじゅうろくねんがつ放送ほうそう

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.57294(新字新仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/card57294.html https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/57294_57602.html 底本:「中谷宇吉郎集 第六巻」岩波書店    2001(平成13)年3月5日第1刷発行 底本の親本:「イグアノドンの唄」文藝春秋新社    1952(昭和27)年12月5日 入力:kompass 校正:砂場清隆
■ 漢字の説明( Explanation of kanji ) 

コ・みずうみ
lakeれいく

ソ・▲おや・▲じじ・▲はじ
originおりじんancestorあんせすたーrootるーと

バン・▲れ・▲おそ
nightないとeveningいぶにんぐ

セン・いずみ
fountainふぁうんてぃんsmallすもーる springすぷりんぐ

ヨ・あたえる・▲くみする・▲あずか
toとぅ giveぎぶtoとぅ supportさぽーと

バイ・うた
songそんぐvocalぼーかる

ボウ・ボッ・▲ホウ・▲まち・▲へや
monkもんくBuddhistぶっでぃすと priestぷりすとchildちゃいるど

ボク・▲ハク・▲すなお・▲ほお
artlessnessあーとれすねす

チン・シン・まくら
pillowぴろーbolsterぼるすたー

㋙シン・つ・▲しる
harborはーばーportぽーと
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小3 ❸MojnaviGoogleBing
2小5 ❺MojnaviGoogleBing
3小6 ❻MojnaviGoogleBing
4小6 ❻MojnaviGoogleBing
5中学 ❼MojnaviGoogleBing
6中学 ❼MojnaviGoogleBing
7中学 ❼MojnaviGoogleBing
8中学 ❼MojnaviGoogleBing
9中学 ❼MojnaviGoogleBing
10中学 ❼MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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