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※ 読よみ仮名がなで漢字『かんじ』（『かんじ』）の様ように括弧かっこの付ついた漢字かんじは原書げんしょで読よみ仮名がなが付ついている漢字かんじです。

作品さくひん名めい：東京とうきょう
著者ちょしゃ名めい：櫻間さくらま 中庸ちゅうよう

　❼すずかけの街路がいろ樹じゅ。葉はの落おちつくした梢こずえを空からっ風かぜがうなって通とおる十じゅう二に月がつです。自動じどう車しゃと電でん車しゃの音おとのみが、いやにやかましい所ところ、此ここ處らは内務ないむ❹しょう大藏おおくら❹しょう復興ふっこう❸きょくなどの門もんを並ならべたいかめしい？　丸まるの内うちです、バラツクの大藏おおくら❹しょう復興ふっこう❸きょく、それ等らの門もんだけが威い嚴げんをそへようとつとめてゐいる。

　音おとの波なみ、光ひかりの波なみ、人ひとの波なみ。三みっつの波なみが交❼こうさくして夜よるの商店しょうてん街がいを構成こうせいしてゐいる。
　競せってうならす蓄音ちくおん機きの❼❼とんきょうなひびき、ラヂオを始はじめとして露店ろてんのたゝたき賣うり、それからとび拔ぬけて高たかく調子ちょうしのよくないのは街頭がいとう演説えんぜつの叫さけびである。何なんといふうかしましさだ、何なんといふうカシマシイ音おとのコーラスだ。
　そうした音おとの中なかを又またすばらしい光ひかりが流ながれてゐいる。店頭てんとうの裝しょう飾しょくの光ひかりは近代きんだい都と會かい人じんの嗜好しこうを如實にょじつに現あらはしてゐいる、濃こ緑みどり・紅べに・青あお・さそうした光こう光こうの中なかをグラリグラリと動うごいて行いく人ひとの群むれ。群むれ。
　十じゅう二に月がつ一日ついたち一齊いっせいに始はじめた歳としの市いちは全市ぜんしをすっかり❺❷しわす氣き分ぶんにかへてしまった、而しかうしかこうした賑にぎやかさの中なかにも不ふ景けい氣きさが充分じゅうぶん❼うかがはれる。金きん解禁かいきんを前まえにひかへての大だい亂らん賣ばい、しかしそれに伴ともはぬ賣うり上あげは不ふ景けい氣きをはっきりと言いひい表あらはしてゐいる。
　あわただしい❺❷しわすは故郷こきょう遠とおく來きてゐいれば❼更ことさらに淋さびしい。