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ルビ付きテキスト

第83話 俗即菩提・吉川英治(新字新仮名)


■ 伏字ふせじ漢字かんじ

※ ❶いち~から❻ろくは小1しょういち~から小6しょうろく、❼ななは中学ちゅうがくで覚おぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小2,❷: 強 , 買
小4,❹: 浅 , 競
小5,❺: 眼
中学,❼: 奪 , 幣 , 旺 , 歓 , 洪

■ 学習がくしゅうコンテンツ  

※ 読よみ仮名がなで漢字『かんじ』(『かんじ』)の様ように括弧かっこの付ついた漢字かんじは原書げんしょで読よみ仮名がなが付ついている漢字かんじです。
  旧きゅう仮名かな遣づかいは新しん仮名かな遣づかいに変かえている場合ばあいもあります。


作品さくひん名めい:俗ぞく即そく菩提ぼだい
著者ちょしゃ名めい:吉川よしかわ 英治えいじ

 みんな金かねを持もって、金かねを捨すてにゆく群ぐん衆しゅうが、どうして皆みなあんなに愉快ゆかいそうな顔かおを揃そろえてゆくだろうか。時ときにふと、あの朝あさの夥おびただしい足あしなみを、ふしぎに眺ながめることがある。
 ❹けい馬ばは、人にん間げんのひとつの❷つよい欲望よくぼうを、済度さいどする不ふ可か思し議ぎな力ちからをもっている。
 ❹馬けいば場じょうに集あつまるほどの者ものは、もとより君子くんし賢人けんじんではない。利り慾よくにも❼盛おうせいなら、金銭きんせんにも一いちばい貪慾どんよくであるべきはずのように思おもわれている。事実じじつ、見みるからに、紙❼しへいの❼水こうずいの中なかで、血❺ちまなこな顔かおが無数むすうである。
 だが、自分じぶんの知しっている範囲はんいや、バスの中なかで一いっしょになる人ひとたちを見みてもその朝あさの他た愛あいなさといったら、事こと❹馬けいばに関かんするかぎり、誰だれも彼かれも、まるで子こどもみたいな稚気ちきに返かえっている。どんな❷慾ごうよくでも抜ぬけ目めない男おとこといわれる者ものでも、例外れいがいなく、少年しょうねん時代じだいの遠足えんそく気分きぶんをそのまま持もって出でかけてゆく。
 また、❹馬けいば場じょうの中なかでは、案外あんがい、スリや❷❼ごうだつが少すくない。国電こくでんなどの場合ばあいと比較ひかくしたら、予想よそう外がいに、そんな被害ひがいはない。おもうに、スリも、あの他愛たわいなきるつぼに立たち交まじっては、ただ単たんに、人ひとのポケットの物ものを、自分じぶんの懐中かいちゅうへ移転いてんさせるだけでは、彼かれのほんとうの欲望よくぼうが満足まんぞくできなくなるにちがいない。スリも、馬券ばけんを❷かって、的中てきちゅうした❼喜かんきを穴場あなばで味あじわいたくなるのだ。私わたくしはそう思おもう。
 ❹馬けいばの真しん味みを知しらない人ひとが、あの混雑こんざつと血❺ちまなこだけを冷❺れいがん視しして、もしそれを、❹あさましい俗ぞくのすがたというならば、そういう人ひと自身じしんのうちに、つつまれているものこそ、もっと❹あさましい、俗ぞくの俗ぞくなるものである。

■ コンテンツこんてんつ  


作品さくひん名めい:俗ぞく即そく菩提ぼだい
著者ちょしゃ名めい:吉川よしかわ 英治えいじ

 みんな金かねを持もって、金かねを捨すてにゆく群ぐん衆しゅうが、どうして皆みなあんなに愉快ゆかいそうな顔かおを揃そろえてゆくだろうか。時ときにふと、あの朝あさの夥おびただしい足あしなみを、ふしぎに眺ながめることがある。
 競けい馬ばは、人にん間げんのひとつの強つよい欲望よくぼうを、済度さいどする不ふ可か思し議ぎな力ちからをもっている。
 競馬けいば場じょうに集あつまるほどの者ものは、もとより君子くんし賢人けんじんではない。利り慾よくにも旺盛おうせいなら、金銭きんせんにも一いちばい貪慾どんよくであるべきはずのように思おもわれている。事実じじつ、見みるからに、紙幣しへいの洪水こうずいの中なかで、血眼ちまなこな顔かおが無数むすうである。
 だが、自分じぶんの知しっている範囲はんいや、バスばすの中なかで一いっしょになる人ひとたちを見みてもその朝あさの他た愛あいなさといったら、事こと競馬けいばに関かんするかぎり、誰だれも彼かれも、まるで子こどもみたいな稚気ちきに返かえっている。どんな強慾ごうよくでも抜ぬけ目めない男おとこといわれる者ものでも、例外れいがいなく、少年しょうねん時代じだいの遠足えんそく気分きぶんをそのまま持もって出でかけてゆく。
 また、競馬けいば場じょうの中なかでは、案外あんがい、スリすりや強奪ごうだつが少すくない。国電こくでんなどの場合ばあいと比較ひかくしたら、予想よそう外がいに、そんな被害ひがいはない。おもうに、スリすりも、あの他愛たわいなきるつぼに立たち交まじっては、ただ単たんに、人ひとのポケットぽけっとの物ものを、自分じぶんの懐中かいちゅうへ移転いてんさせるだけでは、彼かれのほんとうの欲望よくぼうが満足まんぞくできなくなるにちがいない。スリすりも、馬券ばけんを買かって、的中てきちゅうした歓喜かんきを穴場あなばで味あじわいたくなるのだ。私わたくしはそう思おもう。
 競馬けいばの真しん味みを知しらない人ひとが、あの混雑こんざつと血眼ちまなこだけを冷眼れいがん視しして、もしそれを、浅あさましい俗ぞくのすがたというならば、そういう人ひと自身じしんのうちに、つつまれているものこそ、もっと浅あさましい、俗ぞくの俗ぞくなるものである。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.55098(新字新仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card55098.html https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/files/55098_50695.html 底本:「日本の名随筆 別巻80 競馬」作品社    1997(平成9)年10月25日第1刷発行 底本の親本:「吉川英治全集・47 草思堂随筆」講談社    1970(昭和45)年6月20日 入力:門田裕志 校正:川山隆
■ 漢字の説明( Explanation of kanji )  
❷
強
キョウ・㊥ゴウ・強つよい・強つよまる・強つよめる・㊥強しいる・▲強こわい・▲強したたか・▲強つとめる
strengthすとれんぐす ,intensityいんてんさてぃ ,forceふぉーす
❷
買
バイ・買かう
buyばい ,purchaseぱーちゃす ,shoppingしゃっぴんぐ
❹
浅
㊥セン・浅あさい
shallowしゃろう ,superficialすーぱーふぃしゃる
❹
競
キョウ・ケイ・㊥競きそう・㋙競せる・▲競きおう・▲競くらべる
raceれいす ,contestかんてすと ,competitionかむぱてぃしゃん ,vieゔぁぃ ,matchみゃち
❺
眼
ガン・㋙ゲン・㊥眼まなこ・▲眼め
eyeあい ,oculusあきゅらす
❼
奪
ダツ・▲タツ・奪うばう
stealすてぃーる ,usurpゆーさーぷ ,depriveでぃぷらいゔ ,plunderぷらんだ
❼
幣
ヘイ・▲幣ぜに・▲幣ぬさ・▲幣みてぐら
moneyまに ,Shintoしんとう offeringsあーふりんぐす ,offeringおふぁりんぐ ofぁゔ clothくろーす
❼
旺
オウ・▲旺さかん
prosperousぷらすぱらす ,energeticえなじぇてぃく ,enthusiasticいんすーじあすてぃく ,successfulさくせすふぁる ,extensiveいくすてんしゔ
❼
歓
カン・▲歓よろこぶ
joyじょい ,pleasureぷれじゃ ,joyousnessじょいぁすなす ,joyfulnessじょいふるなす
❼
洪
コウ・▲洪おおみず
floodふらど ,greatぐれいと obligationあぶらげぃしゃん ,greatぐれいと enterpriseえんたぷらいず
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小2 ❷強MojnaviGoogleBing
2小2 ❷買MojnaviGoogleBing
3小4 ❹浅MojnaviGoogleBing
4小4 ❹競MojnaviGoogleBing
5小5 ❺眼MojnaviGoogleBing
6中学 ❼奪MojnaviGoogleBing
7中学 ❼幣MojnaviGoogleBing
8中学 ❼旺MojnaviGoogleBing
9中学 ❼歓MojnaviGoogleBing
10中学 ❼洪MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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