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※ 読よみ仮名がなで漢字『かんじ』（『かんじ』）の様ように括弧かっこの付ついた漢字かんじは原書げんしょで読よみ仮名がなが付ついている漢字かんじです。
　 旧きゅう仮名かな遣づかいは新しん仮名かな遣づかいに変かえている場合ばあいもあります。

作品さくひん名めい：回想かいそう
著者ちょしゃ名めい：正宗まさむね 白鳥はくちょう

　私わたくしは日露にちろ開かい戰せんの前年ぜんねん、讀賣よみうり新聞しんぶん社しゃに入社にゅうしゃして、滿まん七しち年ねん間かんの勤務きんむを續つづけたのであったが受うけ持もちは、主しゅとして美術びじゅつ、文學ぶんがく方面ほうめんの消息しょうそくを傳つたへることと、作品さくひんの❻評ひひょうをすることで、演劇えんげきの❻評ひひょうもしてゐいた。今日きょうの文化ぶんか欄らんを主❼しゅさいしてゐいたのだが、何なにもかも一人ひとりでやってゐいるやようなものであった。當時とうじの讀賣よみうりは、美術びじゅつ新聞しんぶんであり文學ぶんがく新聞しんぶんであったものだが、さそういふう新聞しんぶんに於おいて年少ねんしょうの私わたくしが一人ひとりで自由じゆう自在じざいに殆ほとんど何なんの束縛そくばくもなく、藝術げいじゅつ全般ぜんぱんの❻評ひひょうを試こころみてゐいたことは、❷顧かいこして私わたくしは不思議ふしぎに思おもふうとともに、痛快つうかいな事ことであったと思おもってゐいる。
　その道みちで何なんの素養そようもなかった私わたくしが、當とう代だいのさま／″＼ざまな美術びじゅつ作品さくひんを❻判ひはんするなんか、僭越せんえつ至極しごくであったが、傳でん統とうに❼とらへられず、❹しゅう圍いの情勢じょうせいをも顧慮こうりょせず、自分じぶんの感かんずるところをそのままに打ぶちまけたところに、何なにかの新味しんみがあったのではないかと思おもったりしてゐいる。
　とに角かくあの時ときの、讀賣よみうりの文化ぶんか欄らんは特色とくしょくがあったのである。いい意味いみか惡わるい意味いみか、他ほかの新聞しんぶんの穩おん健けん平板へいばんな文化ぶんか欄らんとはちがってゐいた事ことは、絶たえず非❻ひなん❼撃こうげきを受うけてゐいたことによっても證しょう明めいされるのである。私わたくしは非❻ひなんを空そら吹ふく風かぜと受うけ流ながして、自己じこを發揮はっきしてゐいたのだが、當時とうじの主筆しゅひつは、時々ときどきにがい顏かおをしてゐいながらも、私わたくしに警告けいこくもせず、私わたくしを❼❼はいせきもしなかったのであった。今こん日にちの新聞しんぶんの有あり樣ようから云いふうと、想像そうぞうも及およばぬことである。私わたくしが美術びじゅつ❻評ひひょうをも劇げき評ひょうをも❷やめることになったのは、自責じせきの念ねんに基もとづいたので、こんな暴ぼう評ひょうは新聞しんぶんのためによろしくないと自分じぶんで氣きづずいたためであった。私わたくしの藝げい術じゅつ觀かん、人生じんせい觀かんがおのづずから生長せいちょうしたためであらろう。あの頃ころは政治せいじ論ろんでも社しゃ會かい各かく方面ほうめんの論評ろんぴょうでも、私わたくしのやような態度たいどのものが、どこかにあったかも知しれない。
　とに角かく、今日きょうの新聞しんぶんの論調ろんちょうは、どの方面ほうめんででも、❹しゅう圍いを顧慮えんりょしてゐいるものばかりであるやようだ。