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第88話 古傷・蘭郁二郎(新字新仮名)__らん いくじろう


伏字ふせじ漢字かんじ

いちからろく小1しょういちから小6しょうろくなな中学ちゅうがくおぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小2,❷: 弱 , 黄
小3,❸: 転 , 飲
小4,❹: 熱
小6,❻: 傷
中学,❼: 捻 , 擦 , 沸 , 泡

学習がくしゅうコンテンツ 

仮名がな漢字『かんじ』(『かんじ』)のよう括弧かっこいた漢字かんじ原書げんしょ仮名がないている漢字かんじです。
  きゅう仮名かなづかいはしん仮名かなづかいにえている場合ばあいもあります。


作品さくひんめい古傷ふるきず
著者ちょしゃめいらん 郁二郎いくじろう

 ――わたくし自分じぶんよわこころ誤魔化ごまかために、先刻『さっき』からめもしないさけつづけていた。
 第三高調波『サードハーモニックス』えが放送音楽『ラジオミウジック』……
 蓄電器『コンデンサアー』のように白々『しらじら』しく対立たいりつした感情かんじょう……
 溷濁『こんだく』した恋情れんじょうと、ねばねばする空気くうき……
『なにかんがえてんだィ、さあもう一杯いっぱい
 内田うちだくんは、もすればしずちのわたくしを、とろんとした見据みすえながら、ビールのコップをとりげた。
『うーん』
 わたくしねつっぽいりながら、
(あッ……)
 ドキン、むねなかおとがした。
 突出とっしゅつされたコップのなかには❷金こがねいろ液体えきたいすかして、内田うちだくんみぎほおちいさな古❻ふるきずが、恰度『ちょうど』レンズをかしてときのように、尨大ぼうだいにコップ一杯いっぱいひろがってうきしていた。
 しかもそのうえ、そのきずわたくし一時いっとき興奮こうふんから『や』ってしまったあの迪子『みちこ』きずとソックリで、ねじれたようなあかにく隆起りゅうきが、蚯蚓『みみず』のように匍廻『はいまわ』っていた。
(……迪子みちこダ……)
 内田うちだくんがもぐもぐとくち『き』たびに、❼々ふつふつあわつコップのなかで、その迪子みちこがニタニタと『くずお』れるようにわらうのである。
『バカ』
 ちから一杯いっぱいコップをたたおとした。コップは石畳『たたき』くだけ、細片さいへんはギラギラと鋭角えいかくてきひかりげてころがった。……ころんころんころんと部屋へやすみまでころがって破片『かけら』のシツッコさ……
『なんでェ、おれよか、ってやがる』
 内田うちだくんねつっぽいかおをしてゆかにらんだ。
 そのみぎほおっぽけな古❻ふるきずが、「らんかお」してくっついていた。

コンテンツこんてんつ 


作品さくひんめい古傷ふるきず
著者ちょしゃめいらん 郁二郎いくじろう

 ――わたくし自分じぶんよわこころ誤魔化ごまかために、先刻『さっき』からめもしないさけつづけていた。
 第三高調波『サードハーモニックス』えが放送音楽『ラジオミウジック』……
 蓄電器『コンデンサアー』のように白々『しらじら』しく対立たいりつした感情かんじょう……
 溷濁『こんだく』した恋情れんじょうと、ねばねばする空気くうき……
『なにかんがえてんだ、さあもう一杯いっぱい
 内田うちだくんは、もすればしずちのわたくしを、とろんとした見据みすえながら、ビールびーるコップこっぷとりげた。
『うーん』
 わたくしねつっぽいりながら、
(あ……)
 ドキンどきんむねなかおとがした。
 突出とっしゅつされたコップこっぷなかには黄金こがねいろ液体えきたいすかして、内田うちだくんみぎほおちいさな古傷ふるきずが、恰度『ちょうど』レンズれんずかしてときのように、尨大ぼうだいコップこっぷ一杯いっぱいひろがってうきしていた。
 しかもそのうえ、そのきずわたくし一時いっとき興奮こうふんから『や』ってしまったあの迪子『みちこ』きずソックリそっくりで、ねじれたようなあかにく隆起りゅうきが、蚯蚓『みみず』のように匍廻『はいまわ』っていた。
(……迪子みちこ……)
 内田うちだくんがもぐもぐとくち『き』たびに、沸々ふつふつあわコップこっぷなかで、その迪子みちこニタニタにたにた『くずお』れるようにわらうのである。
バカばか
 ちから一杯いっぱいコップこっぷたたおとした。コップこっぷ石畳『たたき』くだけ、細片さいへんギラギラぎらぎら鋭角えいかくてきひかりげてころがった。……ころんころんころんと部屋へやすみまでころがって破片『かけら』シツッコしつっこさ……
『なんでおれよか、ってやがる』
 内田うちだくんねつっぽいかおをしてゆかにらんだ。
 そのみぎほおっぽけな古傷ふるきずが、「らんかお」してくっついていた。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.43437(新字新仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/000325/card43437.html https://www.aozora.gr.jp/cards/000325/files/43437_24884.html 底本:「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」ちくま文庫、筑摩書房    2003(平成5)年6月10日第1刷発行 初出:「自由律」    1932(昭和7)年7月号 入力:門田裕志 校正:川山隆
■ 漢字の説明( Explanation of kanji ) 

ジャク・▲ニャク・よわい・よわる・よわまる・よわめる
weakぅいーくweaknessぅいーくにすinvalidityいんヴぁりだてぃ

㊥コウ・オウ・・㊥
yellowぃえろう

テン・ころがる・ころげる・ころがす・ころぶ・▲ける・▲まろぶ・▲うつる・▲うたた・▲くるり
turnたーんtoとぅ fallふぉーる downだうん

イン・▲オン・
drinkどりんくswallowすわろうdeglutitionでぃーぐるてぃしゃん

ネツ・あつい・▲ほてる・▲いきる・▲ほとぼり
heatひーとcalorきゃらhotはとfeverふぃーゔぁfebrisふぇぶりす

ショウ・きず・㊥いたむ・㊥いためる・▲そこなう
woundぅーんどscarすかーhurtはーとscratchすくらち

ネン・▲デン・▲ねじる・▲ひね
twistとぅいすとknotなとsprainすぷれいんrickりく

サツ・る・れる・▲こする・▲かすれる・▲さする・▲なす
rubbingらびんぐfrictionふりくしゃんchafingちぇいふぃんぐ

フツ・▲ヒ・く・かす・▲てる・▲
boilingぼいりんぐgushがしゅseethingしーじんぐ

ホウ・あわ・▲あぶく
bubbleばぶるfoamふぉうむfrothふろーすsudsさず
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小2 ❷MojnaviGoogleBing
2小2 ❷MojnaviGoogleBing
3小3 ❸MojnaviGoogleBing
4小3 ❸MojnaviGoogleBing
5小4 ❹MojnaviGoogleBing
6小6 ❻MojnaviGoogleBing
7中学 ❼MojnaviGoogleBing
8中学 ❼MojnaviGoogleBing
9中学 ❼MojnaviGoogleBing
10中学 ❼MojnaviGoogleBing
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Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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