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ルビ付きテキスト

第93話 推賞寸言・牧野信一(新字旧仮名)


伏字ふせじ漢字かんじ

いちからろく小1しょういちから小6しょうろくなな中学ちゅうがくおぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小2,❷: 算 , 茶
小6,❻: 胸 , 誌
中学,❼: 佳 , 傑 , 嘆 , 悠 , 澄 , 酌

学習がくしゅうコンテンツ 

仮名がな漢字『かんじ』(『かんじ』)のよう括弧かっこいた漢字かんじ原書げんしょ仮名がないている漢字かんじです。
  きゅう仮名かなづかいはしん仮名かなづかいにえている場合ばあいもあります。


作品さくひんめい推賞すいしょう寸言すんげん
著者ちょしゃめい牧野まきの 信一しんいち

 田舎いなかあかるいたけばやしのほとりにんでる、わたくし知人ちじん簡素かんそ❷室ちゃしつに、ひとあくかかりものがかってた。たしかいつつのかん文字もじであったが、うろおぼえだからしるすのは遠慮えんりょしておくが、わたくしがその意味いみたら、これは、うしてちいさなひとつのひしゃくをって、一杯いっぱいむ――が、このひとつのちいさなひしゃくをってんだ一杯いっぱいは、すなわ一杯いっぱい宇宙うちゅうんだものである――とうな意味いみのことを説明せつめいされた。わたくしは、感心かんしんし、愉快ゆかいであった。そしてわたくしは、すめられたちゃ不思議ふしぎ微妙びみょうな、そして広大こうだい風味ふうみおぼえながら、かかりもの文字もじながめたことがあった。
 そのあとわたくしは、作品さくひん屹度きっとあのとき光景こうけいおもすのである。
 へん前置ぜんちしるしてしまったが。
 わたくしは、このあいだ経済けいざい往来おうらい」(じゅういちがつごう)で「当世とうせいむな❷用ざんよう」(近松ちかまつしゅうこうさく)をんで非常ひじょう感心かんしんした。沁々しみじみと、大家たいかさくである――とおもった。まさに、あのたけばやし❷室ちゃしつあじわ一喫いっきつちゃあじであった。
 その筆致ひっちの、❼々ゆうゆうとしてせまらざる、その態度たいどせいちょうきわめたる着実ちゃくじつさ、その微妙びみょう人心じんしんむいともほがらかな自然しぜん飄逸ひょういつに、わたくし惻々そくそくと、むねたれながら読了どくりょうした。
 題材だいざいとく云々うんぬんするわけではない。作品さくひんとしてのすぐるれたるあじである。作品さくひんは、その題材だいざい如何いかんはず、んな読者どくしゃにもなごやかな妙味みょうみおぼえしむるものである――など今更いまさらうにかんがへた。
 そのほか新潮しんちょう所載しょさい嘉村かむら礒多いそたさく、「あきつまで」に感❼かんたんした。
 余白よはくがないから、「当世とうせいむな❷用ざんよう」にいても、「あきつまで」にかんしてもいろいろなことはべきれぬが、逸作いっさくであるといことの吹聴ふいちょうだけで沢山たくさんうとおもはる。未読みどくほうに、すめたい。
 今月こんげつは、いま以上いじょう雑❻ざっしで、この二作にさくしかんでないのであるが、共々ともどもまれなる作品さくひんであったといことは、近来きんらい快事かいじであった。

コンテンツこんてんつ 


作品さくひんめい推賞すいしょう寸言すんげん
著者ちょしゃめい牧野まきの 信一しんいち

 田舎いなかあかるいたけばやしのほとりにんでる、わたくし知人ちじん簡素かんそ茶室ちゃしつに、ひとあくかかりものがかってた。たしかいつつのかん文字もじであったが、うろおぼえだからしるすのは遠慮えんりょしておくが、わたくしがその意味いみたら、これは、うしてちいさなひとつのひしゃくをって、一杯いっぱいむ――が、このひとつのちいさなひしゃくをってんだ一杯いっぱいは、すなわ一杯いっぱい宇宙うちゅうんだものである――とうな意味いみのことを説明せつめいされた。わたくしは、感心かんしんし、愉快ゆかいであった。そしてわたくしは、すめられたちゃ不思議ふしぎ微妙びみょうな、そして広大こうだい風味ふうみおぼえながら、かかりもの文字もじながめたことがあった。
 そのあとわたくしは、作品さくひん屹度きっとあのとき光景こうけいおもすのである。
 へん前置ぜんちしるしてしまったが。
 わたくしは、このあいだ経済けいざい往来おうらい」(じゅういちがつごう)で「当世とうせいむな算用ざんよう」(近松ちかまつしゅうこうさく)をんで非常ひじょう感心かんしんした。沁々しみじみと、大家たいかさくである――とおもった。まさに、あのたけばやし茶室ちゃしつあじわ一喫いっきつちゃあじであった。
 その筆致ひっちの、悠々ゆうゆうとしてせまらざる、その態度たいどせいちょうきわめたる着実ちゃくじつさ、その微妙びみょう人心じんしんむいともほがらかな自然しぜん飄逸ひょういつに、わたくし惻々そくそくと、むねたれながら読了どくりょうした。
 題材だいざいとく云々うんぬんするわけではない。作品さくひんとしてのすぐるれたるあじである。作品さくひんは、その題材だいざい如何いかんはず、んな読者どくしゃにもなごやかな妙味みょうみおぼえしむるものである――など今更いまさらうにかんがへた。
 そのほか新潮しんちょう所載しょさい嘉村かむら礒多いそたさく、「あきつまで」に感嘆かんたんした。
 余白よはくがないから、「当世とうせいむな算用ざんよう」にいても、「あきつまで」にかんしてもいろいろなことはべきれぬが、逸作いっさくであるといことの吹聴ふいちょうだけで沢山たくさんうとおもはる。未読みどくほうに、すめたい。
 今月こんげつは、いま以上いじょう雑誌ざっしで、この二作にさくしかんでないのであるが、共々ともどもまれなる作品さくひんであったといことは、近来きんらい快事かいじであった。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.52791(新字旧仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/000183/card52791.html https://www.aozora.gr.jp/cards/000183/files/52791_44611.html 底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房    2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行 底本の親本:「文藝春秋 第八巻第十四号(十二月号)」文藝春秋社    1930(昭和5)年12月1日発行 初出:「文藝春秋 第八巻第十四号(十二月号)」文藝春秋社    1930(昭和5)年12月1日発行 入力:宮元淳一 校正:門田裕志
■ 漢字の説明( Explanation of kanji ) 

サン・▲かぞえる・▲かず
arithmeticぁりすまてぃくmathsみゃすすabacusあばかす

チャ・㊥サ
teaてぃーteaてぃー plantぷらんとteaてぃー leafりーふteaてぃー beverageべゔりじbrownぶらうん

キョウ・むね・㊥むな・▲こころ
chestちぇすとbreastぶれすとthoraxそーらくすbustばすと

シ・▲しる
magazineみゃがじーんjournalじゃーんるrecordれかどdocumentだきゅまんと

カ・▲
goodぐどbeautifulびゅーたふぁるexcellentえくさらんとlovelyらゔり

ケツ・▲すぐれる
excellenceえくさらんすmasterpieceまーすたぴーすexcellencyえくさらんしeminenceえまなんすheroicひろういく figureふぃぎゃ

タン・なげく・なげかわしい
lamentらめんとlamentationらまんてぃしゃんbemoanびもうんweepぅいーぷgriefぐりーふdeplorableでぃぷろーらぶる

ユウ・▲はるか・▲とお
endlessえんどりすeternalいたーんるquietくわいぁとcalmかーむleisurelyりーじゃり

㋙チョウ・む・ます
clearくりぁclarifyくららふぁいcrispくりすぷbecomeびかむ transparentとらんすぺらんとsettleせとる downだうん

シャク・㋙
pouringぽーいんぐ alcoholあるかほーるservingさーゔぃんぐ withぅいず sakeさけgeishaげいしゃ girlがーる
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小2 ❷MojnaviGoogleBing
2小2 ❷MojnaviGoogleBing
3小6 ❻MojnaviGoogleBing
4小6 ❻MojnaviGoogleBing
5中学 ❼MojnaviGoogleBing
6中学 ❼MojnaviGoogleBing
7中学 ❼MojnaviGoogleBing
8中学 ❼MojnaviGoogleBing
9中学 ❼MojnaviGoogleBing
10中学 ❼MojnaviGoogleBing
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Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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