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作品サクヒン名メイ：私ワタクシのノふるさとフルサト
著者チョシャ名メイ：中ナカ谷ヤ 宇ウ吉キチ郎ロウ

　私ワタクシのノふるさとフルサトはワ、石川イシカワ県ケンのノ片カタ山津ヤマヅとトいユうウ温泉オンセン地チでデあるアル。柴山潟シバヤマガタとトいユうウ湖ミズウミのノほとりホトリにニあってアッテ、私ワタクシのノ子供コドモのノころコロはワ、まだマダ淋サビしいシイ湖畔コハンのノ小チイさいサイ温泉オンセン地チでデあったアッタ。
　このコノ潟カタにニはワあしアシがガ一面イチメンにニ生ハえてエテいてイテ、“ばんバン”とトいユうウ黒クロいイ水鳥ミズトリがガ、たくさんタクサン棲スんでンデいたイタ。泉イズミ鏡花キョウカのノ小説ショウセツにもニモ出デてテくるクルがガ、このコノ“ばんバン”とトいユうウ鳥トリはワ、何ナンとトなくナクこのコノ世ヨばなれバナレをヲしたシタ感カンじジをヲ与アタえるエル鳥トリでデあるアル。女オンナのノたましいタマシイをヲ思オモわすワスようなヨウナ眼メをヲしてシテいるイル。それソレもモ玄人クロウト風フウなナ女オンナでデあるアル。
　温泉オンセン地チでデあるアルからカラ、毎晩マイバンのノようヨウにニ三味線シャミセンのノ音オトやヤ女オンナのノ唄声ウタゴエなどナドがガ、宿屋ヤドヤのノ明アカるいルイ窓マドをヲ洩モれレてテ、暗クラいイ湖ミズウミのノ面オモにニ消キえてエテいくとイクトいユうウようなヨウナ風フ情ゼイがガあったアッタ。もっともモットモそのソノ頃コロはワまだマダ電灯デントウのノなかったナカッタ頃コロでデ、街マチはワ暗クラくク、それソレにニひどいヒドイ田舎イナカのノ温泉オンセン地チのノことコトでデあるアルからカラ、色イロっぽいッポイところトコロがガあったアッタとトいってイッテもモ、きわめてキワメテ素朴ソボクなナものモノでデあったアッタ。
　北陸ホクリク地方チホウのノことコトでデあるアルからカラ、冬フユにニなるナルとト、よくヨク雪ユキやヤみぞミゾれレをヲまじえマジエたタ強ツヨいイ風カゼがガ吹フいイたタ。そういうソウイウ時トキはワ、温泉オンセン宿ヤドにもニモほとんどホトンド客キャクがガなくナク、湖ミズウミがガまるでマルデ海ウミのノようヨウにニ荒アれたレタ。そのソノ浪ナミ音オトがガ、床ユカのノ中ナカまでマデひびきヒビキ、枕マクラもとモトのノランプらんぷのノ小チイさいサイ火ヒがガゆらゆらユラユラとト動ウゴいたイタ。戸トじまりジマリのノ悪ワルいイ田舎イナカのノ家イエはワ、いろいろイロイロなナところトコロがガ、がたがたガタガタとト鳴ナったッタ。
　そういうソウイウ晩バンはワ、私ワタクシとト弟オトウトはワ、祖母ソボのノ床ユカにニもぐりモグリ込コみミ、そのソノ両リョウわきワキにニぴったりピッタリとト身ミをヲよせてヨセテねたネタ。祖母ソボはワ、天狗テングのノ話ハナシだのダノ、海ウミ坊主ボウズのノ話ハナシだダのノをヲよくヨクしてシテくれたクレタ。近チカくのクノどこそこドコソコのノ子供コドモがガ天狗テングにニさらわれサラワレたりタリ、隣トナりリ村ムラのノ何ナニ兵衛ヒョウエさんサンがガ、今夜コンヤのノようヨウなナ晩バンにニ、潟カタへエ出デてテいてイテ、海ウミ坊ボウ主ズにニ遇アったりッタリしたシタ話ハナシでデあるアル。祖母ソボのノ若ワカいイ時代ジダイにニはワ、そういうソウイウものモノがガ、このコノ湖ミズウミのノほとりホトリにニはワ実際ジッサイにニいたイタのでノデあるアル。
　小ショウ学校ガッコウへエはいるハイルとト同時ドウジにニ、私ワタクシはワこのコノ土地トチをヲ離ハナれたレタのでノデ、温オン泉セン地チのノ姿スガタそのものソノモノのノ印イン象ショウはワうすいウスイ。私ワタクシのノふるさとフルサトはワ、このコノ祖母ソボのノ話ハナシのノ中ナカにニ一番イチバン多オオくク生イきてキテいるイルようヨウでデあるアル。

　（昭和ショウワ二ニ十ジュウ六ロク年ネン五ゴ月ガツ放送ホウソウ）