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ルビ付きテキスト

第1話 愛読書の印象・芥川竜之介(新字旧仮名)


■ 伏字ふせじ漢字かんじ

※ ❶いち~から❻ろくは小1しょういち~から小6しょうろく、❼ななは中学ちゅうがくで覚おぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小1,❶: 学 , 小 , 本 , 水
小2,❷: 前 , 時 , 書 , 読
小4,❹: 愛
中学,❼: 僕

■ 学習がくしゅうコンテンツ  

※ 読よみ仮名がなで漢字『かんじ』(『かんじ』)の様ように括弧かっこの付ついた漢字かんじは原書げんしょで読よみ仮名がなが付ついている漢字かんじです。


作品さくひん名めい:愛読書あいどくしょの印象いんしょう
著者ちょしゃ名めい:芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ

 子供こどもの❷ときの❹❷❷あいどくしょは「西遊記さいゆうき」が第一だいいちである。これ等らは今日こんにちでも❼ぼくの❹❷❷あいどくしょである。比喩ひゆ談だんとしてこれほどの傑作けっさくは、西洋せいようには一ひとつもないであらうと思おもふ。名高なだかいバンヤンの「天路てんろ歴程れきてい」なども到底とうていこの「西遊記さいゆうき」の敵てきではない。それから「❶滸伝すいこでん」も❹❷❷あいどくしょの一ひとつである。これも今以いまもって❹❷あいどくしてゐいる。一❷いちじは「❶滸伝すいこでん」の中なかの一百八ひゃくはち人にんの豪傑ごうけつの名❷なまえを悉ことごとく諳記『あんき』してゐいたことがある。その❷分じぶんでも押川おしかわ春浪しゅんろう氏しの冒険ぼうけん❶説しょうせつや何なにかよりもこの「❶滸伝すいこでん」だの「西遊記さいゆうき」だのといふゆう方ほうが遥はるかに❼ぼくに面白おもしろかつた。
 中❶ちゅうがくへ入❶にゅうがく❷まえから徳富とくとみ蘆花ろか氏しの「自然しぜんと人生じんせい」や樗牛ちょぎゅうの「平家へいけ雑感ざっかん」や❶島こじま烏❶うすい氏しの「日❶にほん山❶さんすい論ろん」を❹❷あいどくした。同❷どうじに、夏目なつめさんの「猫ねこ」や鏡花きょうか氏しの「風流線ふうりゅうせん」や緑雨りょくうの「あられ酒ざけ」を❹❷あいどくした。だから人ひとの事ことは笑わらへない。❼ぼくにも「文章ぶんしょう倶楽部くらぶ」の「青年せいねん文士ぶんし録ろく」の中なかにあるやうな「トルストイ、坪内つぼうち士行しこう、大町おおまち桂月けいげつ」❷代じだいがあつた。
 中❶ちゅうがくを卒業そつぎょうしてから色いろんな❶ほんを❷よんだけれども、特とくに❹❷あいどくした❶ほんといふものはないが、概がいして云いふと、ワイルドとかゴーチエとかいふやうな絢爛『けんらん』とした❶説しょうせつが好すきであつた。それは❼ぼくの気質きしつからも来きてゐいるであらうけれども、一ひとつは慥『たし』かに日❶にほんの自然しぜん主義しゅぎ的てきな❶説しょうせつに厭あきた反動はんどうであらうと思おもふ。ところが、高等こうとう❶校がっこうを卒業そつぎょうする❷後ぜんごから、どういふものか趣味しゅみや物ものの見方みかたに大おおきな曲折きょくせつが起おこつて、❷まえに言いつたワイルドとかゴーチエとかといふ作家さっかのものがひどくいやになつた。ストリンドベルクなどに傾倒けいとうしたのはこの頃ころである。その❷分じぶんの❼ぼくの心持こころもちからいふと、ミケエロ・アンヂエロ風ふうな力ちからを持もつてゐいない芸術げいじゅつはすべて瓦礫がれきのやうに感かんじられた。これは当❷とうじ❷よんだ「ジヤンクリストフ」などの影響えいきょうであつたらうと思おもふ。
 さういふ心持こころもちが大❶だいがくを卒業そつぎょうする後あとまでも続つづいたが、段々だんだん燃もえるやうな力ちからの崇拝すうはいもうすらいで、一年いちねん❷まえから静しずかな力ちからのある❷物しょもつに最もっとも心こころを惹ひかれるやうになつてゐいる。但ただし、静しずかなと言いつてもたゞただ静しずかだけでも力ちからのないものには余あまり興味きょうみがない。スタンダールやメリメエや日❶にほん物もので西鶴さいかくなどの❶説しょうせつはこの点てんで今いまの❼ぼくには面白おもしろくもあり、又またためにもなる❶ほんである。
 序ついでながら附つけ加くわへておくが、此間こないだ「ジヤンクリストフ」を出だして❷よんで見みたが、昔むかしほど感興かんきょうが乗のらなかつた。あの❷分じぶんの❶ほんはだめなのかと思おもつたが、「アンナカレニナ」を出だして二三にさん章しょう❷よんで見みたら、これは昔むかしのやうに有難ありがたい気きがした。

■ コンテンツこんてんつ  


作品さくひん名めい:愛読書あいどくしょの印象いんしょう
著者ちょしゃ名めい:芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ

 子供こどもの時ときの愛読書あいどくしょは「西遊記さいゆうき」が第一だいいちである。これ等らは今日こんにちでも僕ぼくの愛読書あいどくしょである。比喩ひゆ談だんとしてこれほどの傑作けっさくは、西洋せいようには一ひとつもないであらうと思おもふ。名高なだかいバンヤンばんやんの「天路てんろ歴程れきてい」なども到底とうていこの「西遊記さいゆうき」の敵てきではない。それから「水滸伝すいこでん」も愛読書あいどくしょの一ひとつである。これも今以いまもって愛読あいどくしてゐいる。一時いちじは「水滸伝すいこでん」の中なかの一百八ひゃくはち人にんの豪傑ごうけつの名前なまえを悉ことごとく諳記『あんき』してゐいたことがある。その時分じぶんでも押川おしかわ春浪しゅんろう氏しの冒険ぼうけん小説しょうせつや何なにかよりもこの「水滸伝すいこでん」だの「西遊記さいゆうき」だのといふゆう方ほうが遥はるかに僕ぼくに面白おもしろかつた。
 中学ちゅうがくへ入学にゅうがく前まえから徳富とくとみ蘆花ろか氏しの「自然しぜんと人生じんせい」や樗牛ちょぎゅうの「平家へいけ雑感ざっかん」や小島こじま烏水うすい氏しの「日本にほん山水さんすい論ろん」を愛読あいどくした。同時どうじに、夏目なつめさんの「猫ねこ」や鏡花きょうか氏しの「風流線ふうりゅうせん」や緑雨りょくうの「あられ酒ざけ」を愛読あいどくした。だから人ひとの事ことは笑わらへない。僕ぼくにも「文章ぶんしょう倶楽部くらぶ」の「青年せいねん文士ぶんし録ろく」の中なかにあるやうな「トルストイとるすとい、坪内つぼうち士行しこう、大町おおまち桂月けいげつ」時代じだいがあつた。
 中学ちゅうがくを卒業そつぎょうしてから色いろんな本ほんを読よんだけれども、特とくに愛読あいどくした本ほんといふものはないが、概がいして云いふと、ワイルドわいるどとかゴーチエごーちえとかいふやうな絢爛『けんらん』とした小説しょうせつが好すきであつた。それは僕ぼくの気質きしつからも来きてゐいるであらうけれども、一ひとつは慥『たし』かに日本にほんの自然しぜん主義しゅぎ的てきな小説しょうせつに厭あきた反動はんどうであらうと思おもふ。ところが、高等こうとう学校がっこうを卒業そつぎょうする前後ぜんごから、どういふものか趣味しゅみや物ものの見方みかたに大おおきな曲折きょくせつが起おこつて、前まえに言いつたワイルドわいるどとかゴーチエごーちえとかといふ作家さっかのものがひどくいやになつた。ストリンドベルクすとりんどべるくなどに傾倒けいとうしたのはこの頃ころである。その時分じぶんの僕ぼくの心持こころもちからいふと、ミケエロみけえろ・アンヂエロあんぢえろ風ふうな力ちからを持もつてゐいない芸術げいじゅつはすべて瓦礫がれきのやうに感かんじられた。これは当時とうじ読よんだ「ジヤンクリストフじやんくりすとふ」などの影響えいきょうであつたらうと思おもふ。
 さういふ心持こころもちが大学だいがくを卒業そつぎょうする後あとまでも続つづいたが、段々だんだん燃もえるやうな力ちからの崇拝すうはいもうすらいで、一年いちねん前まえから静しずかな力ちからのある書物しょもつに最もっとも心こころを惹ひかれるやうになつてゐいる。但ただし、静しずかなと言いつてもたゞただ静しずかだけでも力ちからのないものには余あまり興味きょうみがない。スタンダールすたんだーるやメリメエめりめえや日本にほん物もので西鶴さいかくなどの小説しょうせつはこの点てんで今いまの僕ぼくには面白おもしろくもあり、又またためにもなる本ほんである。
 序ついでながら附つけ加くわへておくが、此間こないだ「ジヤンクリストフじやんくりすとふ」を出だして読よんで見みたが、昔むかしほど感興かんきょうが乗のらなかつた。あの時分じぶんの本ほんはだめなのかと思おもつたが、「アンナカレニナあんなかれにな」を出だして二三にさん章しょう読よんで見みたら、これは昔むかしのやうに有難ありがたい気きがした。

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.4872 (新字旧仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card4872.html https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/4872_21839.html 底本:「芥川龍之介全集 第六巻」岩波書店    1996(平成8)年4月8日発行 初出:「文章倶楽部 第5年第8号」    1920(大正9)年8月1日発行 ※初出誌に、顔写真と「曇天の水動かずよ芹の中」の句の筆跡写真と共に掲載された。 入力:砂場清隆 校正:高柳典子
■ 漢字の説明( Explanation of kanji )  
❶
学
ガク・学まなぶ
learnらーん
❶
小
ショウ・小ちいさい・小こ・小お・▲小さ
smallすもーる
❶
本
ホン・本もと
bookぶっく ,mainめいん ,principalぷりんしぱる
❶
水
スイ・水みず
waterうぉーたー
❷
前
ゼン・▲セン・前まえ・▲前さき
frontふろんと
❷
時
ジ・時とき
timeたいむ
❷
書
ショ・書かく・▲書ふみ
writeらいと downだうん ,bookぶっく
❷
読
ドク・トク・トウ・読よむ
readingりーでぃんぐ
❹
愛
アイ・▲愛めでる・▲愛おしむ・▲愛まな・▲愛かなしい・▲愛いとしい・▲愛うい
unconditionalあんこんでぃしょなる loveらぶ
❼
僕
ボク・▲僕しもべ・▲僕やつがれ
meみー ,servantさーゔぁんと
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小1 ❶学MojnaviGoogleBing
2小1 ❶小MojnaviGoogleBing
3小1 ❶本MojnaviGoogleBing
4小1 ❶水MojnaviGoogleBing
5小2 ❷前MojnaviGoogleBing
6小2 ❷時MojnaviGoogleBing
7小2 ❷書MojnaviGoogleBing
8小2 ❷読MojnaviGoogleBing
9小4 ❹愛MojnaviGoogleBing
10中学 ❼僕MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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