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ルビ付きテキスト

第2話 小説の読者・芥川龍之介(新字旧仮名)


■ 伏字ふせじ漢字かんじ

※ ❶いち~から❻ろくは小1しょういち~から小6しょうろく、❼ななは中学ちゅうがくで覚おぼえる常用じょうよう漢字かんじです。
小1,❶: 生
小2,❷: 何 , 活 , 自 , 近
小3,❸: 持 , 級 , 身 , 階
小4,❹: 説

■ 学習がくしゅうコンテンツ  

※ 読よみ仮名がなで漢字『かんじ』(『かんじ』)の様ように括弧かっこの付ついた漢字かんじは原書げんしょで読よみ仮名がなが付ついている漢字かんじです。


作品さくひん名めい:小説しょうせつの読者どくしゃ
著者ちょしゃ名めい:芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ

 僕ぼくの経験けいけんするところによれば、今いまの小❹しょうせつの読者どくしゃといゆうものは、大抵『たいてい』はその小❹しょうせつの筋すじを読よんでゐいる。その次つぎには、その小❹しょうせつの中なかに描『か』かれた❶❷せいかつに憧憬『しようけい』を❸もつてゐいる。これには時々ときどき不思議ふしぎな気❸きもちがしないことはない。
 現げんに僕ぼくの知しつてゐいる或ある人ひとなどは随分『ずいぶん』経済的けいざいてきに苦くるしい暮くらしをしてゐいながら、富豪ふごうや華族かぞくばかり出でて来くる通俗つうぞく小❹しょうせつを愛読あいどくしてゐいる。のみならず、この人ひとの❶❷せいかつに❷ちかい❶❷せいかつを書かいた小❹しょうせつには全然ぜんぜん興味きょうみを❸もつてゐいない。
 第三だいさんには、第二だいにと反対はんたいに、その次つぎには読者どくしゃ❷❸じしんの❶❷せいかつに❷ちかいものばかり求もとめてゐいる。
 僕ぼくはこれらを必かならずしも悪わるいこととは思おもつてゐいない。この三みっつの心❸こころもちは、同時どうじに僕ぼく❷❸じしんの中『うち』にも存在そんざいしてゐいる。僕ぼくは筋すじの面白おもしろい小❹しょうせつを愛読あいどくしてゐいる。それから僕ぼく❷❸じしんの❶❷せいかつに遠とおい❶❷せいかつを書かいた小❹しょうせつも愛読あいどくしないことはない。最後さいごに、僕ぼく❷❸じしんの❶❷せいかつに❷ちかい小❹しょうせつを愛読あいどくしてゐいることは勿論もちろんである。
 然しかし、それらの小❹しょうせつを鑑賞かんしょうする時ときに、僕ぼくの評価ひょうかを決定けっていするものは必かならずしも、それらの気❸きもちではない。若もし僕ぼくが(読者どくしゃとして)世間せけんの小❹しょうせつの読者どくしゃと違ちがつてゐいるとするならば、かう云いふ点てんにあると思おもつてゐいる。では❷なにが僕ぼくの評価ひょうかを決定けっていするかと云いへば感銘『かんめい』の深ふかさとでも云いふほかはない。それには筋すじの面白おもしろさとか、僕ぼく❷❸じしんの❶❷せいかつに遠とおいこととか、或あるいはまた僕ぼく❷❸じしんの❶❷せいかつに❷ちかいこととか云いふことも勿論もちろん、幾分いくぶんか影響えいきょうしてゐいるだらう。然しかしそれらの影響えいきょうのほかに未『ま』だ❷なにかあることを信しんじてゐいる。
 この❷なにかに動うごかされる読者どくしゃの一群『いちぐん』が、つまり読書どくしょ❸❸かいきゅうと呼よばれるのである。或あるいは文芸的ぶんげいてき知識ちしき❸❸かいきゅうと呼よばれるのである。
 かう云いふ❸❸かいきゅうは存外『ぞんぐわい』狭せまい。おそらくは、西洋せいようよりも一層いっそう狭せまいだらう。僕ぼくは今いま、かう云いふ事実じじつの善悪ぜんあくを論ろんじてゐいるのではない。唯ただ事実じじつとして一寸『ちよつと』話はなすだけである。

  (昭和しょうわ二年にねん三月さんがつ)

■ コンテンツこんてんつ  


作品さくひん名めい:小説しょうせつの読者どくしゃ
著者ちょしゃ名めい:芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ

 僕ぼくの経験けいけんするところによれば、今いまの小説しょうせつの読者どくしゃといゆうものは、大抵『たいてい』はその小説しょうせつの筋すじを読よんでゐいる。その次つぎには、その小説しょうせつの中なかに描『か』かれた生活せいかつに憧憬『しようけい』を持もつてゐいる。これには時々ときどき不思議ふしぎな気持きもちがしないことはない。
 現げんに僕ぼくの知しつてゐいる或ある人ひとなどは随分『ずいぶん』経済的けいざいてきに苦くるしい暮くらしをしてゐいながら、富豪ふごうや華族かぞくばかり出でて来くる通俗つうぞく小説しょうせつを愛読あいどくしてゐいる。のみならず、この人ひとの生活せいかつに近ちかい生活せいかつを書かいた小説しょうせつには全然ぜんぜん興味きょうみを持もつてゐいない。
 第三だいさんには、第二だいにと反対はんたいに、その次つぎには読者どくしゃ自身じしんの生活せいかつに近ちかいものばかり求もとめてゐいる。
 僕ぼくはこれらを必かならずしも悪わるいこととは思おもつてゐいない。この三みっつの心持こころもちは、同時どうじに僕ぼく自身じしんの中『うち』にも存在そんざいしてゐいる。僕ぼくは筋すじの面白おもしろい小説しょうせつを愛読あいどくしてゐいる。それから僕ぼく自身じしんの生活せいかつに遠とおい生活せいかつを書かいた小説しょうせつも愛読あいどくしないことはない。最後さいごに、僕ぼく自身じしんの生活せいかつに近ちかい小説しょうせつを愛読あいどくしてゐいることは勿論もちろんである。
 然しかし、それらの小説しょうせつを鑑賞かんしょうする時ときに、僕ぼくの評価ひょうかを決定けっていするものは必かならずしも、それらの気持きもちではない。若もし僕ぼくが(読者どくしゃとして)世間せけんの小説しょうせつの読者どくしゃと違ちがつてゐいるとするならば、かう云いふ点てんにあると思おもつてゐいる。では何なにが僕ぼくの評価ひょうかを決定けっていするかと云いへば感銘『かんめい』の深ふかさとでも云いふほかはない。それには筋すじの面白おもしろさとか、僕ぼく自身じしんの生活せいかつに遠とおいこととか、或あるいはまた僕ぼく自身じしんの生活せいかつに近ちかいこととか云いふことも勿論もちろん、幾分いくぶんか影響えいきょうしてゐいるだらう。然しかしそれらの影響えいきょうのほかに未『ま』だ何なにかあることを信しんじてゐいる。
 この何なにかに動うごかされる読者どくしゃの一群『いちぐん』が、つまり読書どくしょ階級かいきゅうと呼よばれるのである。或あるいは文芸的ぶんげいてき知識ちしき階級かいきゅうと呼よばれるのである。
 かう云いふ階級かいきゅうは存外『ぞんぐわい』狭せまい。おそらくは、西洋せいようよりも一層いっそう狭せまいだらう。僕ぼくは今いま、かう云いふ事実じじつの善悪ぜんあくを論ろんじてゐいるのではない。唯ただ事実じじつとして一寸『ちよつと』話はなすだけである。

  (昭和しょうわ二年にねん三月さんがつ)

■ 原書情報(青空文庫) 図書カード:No.3794(新字旧仮名) https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3794.html https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3794_27310.html 底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏
■ 漢字の説明( Explanation of kanji )  
❶
生
セイ・ショウ・生いきる・生いかす・生いける・生うまれる・生うむ・㊥生おう・生はえる・生はやす・㊥生き・生なま・▲生いのち・▲生うぶ・▲生なる・▲生なす
livingりびんぐ
❷
何
㊥カ・何なに・何なん・▲何いずれ・▲何いずく
whatわっと
❷
活
カツ・▲活いきる・▲活いける・▲活いかす
liveらいぶ
❷
自
ジ・シ・自みずから・▲自おのずから・▲自より
selfせるふ
❷
近
キン・▲コン・近ちかい
nearにあ
❸
持
ジ・▲チ・持もつ
holdほーるど
❸
級
キュウ・▲級しな・▲級くび
classくらす
❸
身
シン・身み
bodyぼでぃ
❸
階
カイ・▲階きざはし・▲階はしご・▲階しな
stairsすてあーず
❹
説
セツ・㋙ゼイ・▲エツ・説とく・▲説よろこぶ
persuasionぱすうぇーじょん
(付記,Note)
※ 最初の行は音訓読みを記載しています。カタカナは音読み、ひらがなルビは訓読みです。
※ ▲は常用外の読み方です。㊥は中学・㋙は高校で習う読み方です。漢検・漢字辞典の記載に準拠しています。
※ ▲ is a non-regular reading. ㊥ is the reading learned in junior high school and ㋙ is the reading learned in high school.
■ 漢字のリンク集/書き順&意味 , stroke order:Mojinavi , Another languages:Google , Bing
1小1 ❶生MojnaviGoogleBing
2小2 ❷何MojnaviGoogleBing
3小2 ❷活MojnaviGoogleBing
4小2 ❷自MojnaviGoogleBing
5小2 ❷近MojnaviGoogleBing
6小3 ❸持MojnaviGoogleBing
7小3 ❸級MojnaviGoogleBing
8小3 ❸身MojnaviGoogleBing
9小3 ❸階MojnaviGoogleBing
10小4 ❹説MojnaviGoogleBing
★★★ 各小説投稿サイトへのリンク集(各投稿サイトでも公開しています) ★★★
Q:青空文庫って、何ですか?
A:1997年に始まったボランティア活動で、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、共有可能なものとして図書館のようにインターネット上に集めようとしております。現在は、日本国内で著作権保護期間の満了した作品を中心に、ボランティアのみなさんの力によって電子化作業を進めています。青空文庫はそういった電子化活動のための、またその成果物をアーカイヴしておくための場でもあり、そこからコピーされた本の集成や活用事例もまた〈青空文庫〉と呼ばれることがあります。
Q: What is Aozora Bunko?
A: The volunteer activities, which began in 1997, the free e-book that can be accessed by anyone in, we are going to gather on the Internet like a library as a thing that can be shared. Currently, we are proceeding with digitization work with the help of volunteers, focusing on works whose copyright protection period has expired in Japan. Aozora Bunko is a place for such digitization activities and for archiving the deliverables, and the collection and use cases of books copied from it are also sometimes called “Aozora Bunko”.
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